ヤスジのかるい思い出話(ヤスカル話) | HOME |
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第一回 (2003.7.23 UP) 函館の公立中学に通っていたぼくたちの修学旅行は3泊4日の東北名所巡りでした。どういうコースを周ったのかはよく憶えていませんが、藤原家三代は藤原清衡で有名な平泉の中尊寺と、版画で有名な棟方志功の美術館へ行ったことは憶えています。しかし、そのような、どこへ行って何を見たかということよりも、所々のちょっとした断片的な思い出が鮮明に残っていたりします。 2泊目の旅館でのことでした。 旅館に到着すると、ぼくたちは出発前に分けられた6人ずつのグループでそれぞれの部屋へ入りました。 ご存知のように旅館には各部屋に冷蔵庫が設置してあって、その中には泊り客用にと、魅力的な飲み物がはじめから用意されています。もちろんそれはサービスなんかではなくて、飲んだ分はあとから精算する仕組みです。しかしそれは一般の泊り客に対するときのことで、ぼくたちのような修学旅行生、ましてや中学生なんかは相手にされていません。冷蔵庫にはあらかじめ鍵がかけられていて開けられないようになっています。しかし鍵といっても小さな冷蔵庫についているものですから、ちょっとひっかかっているだけのちゃちなものです。 誰かがさっそく冷蔵庫に興味を示しました。誰が最初だったのかは憶えていません。あるいはぼくだったかもしれません。ここではぼくということにしておきましょう。 ぼくはさっそく冷蔵庫に興味を示しました。かすかに開く冷蔵庫の隙間から中をのぞきこんで 「お、入ってる入ってる。ジュースとかいろいろ入ってるぞ」 それに答えて冷静なやつが言います。 「すったらこと言ったって鍵かかってんだべ(そんなこと言っても鍵がかかってるんだろ)」 「こったらもんすぐハズれんでねえのか(こんなものすぐに外れるんじゃないのか)」 そう言いながら冷蔵庫の上のほうをぐっと持ち上げて扉を引っぱると簡単に開きました。 「だべ(ほらね)」 しかしそれを勝手に飲んはいけないことは、もちろんみんなよくわかっています。冷蔵庫が開くことを確認しただけで、ぼくはすぐにまた、ぐっと持ち上げて扉を閉めました。 さて、夕食とそのあとのレクリエーションも終わり、ぼくたちは自分たちの部屋へと引きあげてきました。すっかり羽目を外して部屋へ戻ったぼくたちの手は、案の定、冷蔵庫へ伸びます。 「なんか飲むべ」 「やべぇんでねえのか」 「だいじょうぶだべ。空き缶隠しとけばわかんねえべや」 「んだな」 ぼくの提案に賛同したのはふたりでした。あとの冷静な3人は「おれしらねえからな」と言って手を出しませんでした。 冷蔵庫の中にはジュースのほか、赤まむしドリンクも入っていて、普段そんなものを口にすることはないぼくたちは「これにするべ」と言って赤まむしドリンクを取り出すと、コリコリコリ、ついに禁断のスクリューキャップを開けてしまったのです。 まずはぼくが一口飲みます。 ゴクン。 「くぅ〜きくぅ〜」 何が効くのかもよくわからないままそんなことを口走って喜んでいます。そしてほかの二人にも回しましたが、そんなものは一口ずつであっという間に終わってしまいました。 「もう1本いくか」 「いや、同じもんが2本もなくなってたらバレるんでねえのか」 「んだな、せば、こっちにしとくか」 調子に乗ったぼくたちは今度はたっぷり飲めるようにとファンタの350ml缶を1本開けて、また3人で回し飲みをしました。飲み終わった赤まむしの空き瓶とファンタの空き缶は窓から草むらの中に捨てて、その夜は遅くまでワイワイとひとしきり騒いでから眠りについたのでした。 翌朝、大広間での朝食を終えて部屋へ戻ったぼくたちは、準備を整えていよいよ出発です。ぼくは内心ドキドキしながらも、ばれずにすんだことをほっとしながら部屋を出ようとしていました。その時です。仲居さんがぼくたちの部屋へ帳面を持ってやってきたのです。 ぼくの心臓はドキドキいいはじめました。どうやら一部屋ずつ冷蔵庫の中味をチェックして回っているようなのです。ぼくたちは目配せをしながら知らん顔で部屋をあとにして玄関へと急ぎました。ふぅ、ギリギリセーフだったな。まだドキドキしながらも靴を履き終えた時でした。 「あなたたち、竹の間にいた人たちでしょ」 ドキーーーッ あの仲居さんがぼくたちのそばにやって来て声をかけたのです。 ぼくたちの顔は引きつりました。 「あなたたち、竹の間にいた人たちでしょ」 「あ、はい・・・」 「飲んだんでしょ、赤まむしとファンタ」 「え?しらないっすよ」 「ねえ、お金払ってって。今払ってくれれば先生にも言わないから」 ぼくたちははじめはシラを切ろうとしましたが、すぐにもう観念するしかないと悟り「はい。いくらですか」と言って、中学生にとってはかなり高いジュース代をその場で払って旅館をあとにしたのでした。 たしかに勝手に飲んだぼくたちが悪いに決まっています。しかしそこの旅館もちょっと姑息な感じがしませんか?朝になってから一部屋ずつ冷蔵庫の中を調べて回るなんて、これは言ってみれば、おとり捜査のようなものです。 冷蔵庫が簡単に開けられて、中のものを飲まれてしまうであろうことは旅館側では百も承知だったはずです。なにもぼくたちが初めての修学旅行生ではなく、これまでも多くの生徒たちを受け入れてきているのです。ぼくたちと同じように勝手に飲んでしまった悪ガキどもはたくさんいたことでしょう。実際、ぼくたち以外の部屋でも勝手に飲んでしまった生徒はけっこういたようです。 飲まれるのがいやなら最初から冷蔵庫の中身を抜いておけばいいのです。もしくは、「飲んではいけません」とか「飲み物には料金がかかります」などと張り紙をするなり、前もって口頭で注意をしておくべきなのです。 浅はかなぼくたちは、まんまとその罠にかかってしまって、高いジュース代を払わされてしまったというわけです。今になって思えば、ビールなどのアルコール類が冷蔵庫の中に入っていなかったのは、さすがに中学生にビールはまずいだろうという旅館側の「配慮」だったに違いありません。まさに罠です。 さて、なにはともあれ、無事旅館をあとにしたぼくたちの修学旅行3日目が始まりました。 悪いことはできないもんだな。とにかくちゃんとお金も払ったから逆にすっきりしたよね。ぼくたちはそんなことを言い合ってその日一日を楽しく過ごし、3泊目の旅館へ到着したのでした。(つづく) 3日目の晩にヤスジは体調を崩してしまいます。きれいな保健室の先生に脈をとられて顔を赤らめるヤスジ。はたしてそれは赤まむしのせいなのか!? 次回をどうぞお楽しみに!!近日公開!? 第二回 (2003.8.3
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