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第七話 格安バスツアー(東京〜青森 往路編) ヤスカル話目次

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第一回 (2006.1.7UP)


とにかく安い。東京から青森までが片道5000円という高速バス。青森までの高速バスはかつて何度か利用したこともあったが、そのときは片道1万円だった。ここ数年でこんなにも値下がりしたのか?と驚いたが、1万円のバスは今でも存在するらしい。この5000円のバスはそれとはまた別の会社の格安バスツアーと言った企画により実現しているらしいことはあとになって知ったのだが、とにかく安いに越したことはない。ぼくはさっそく往復チケットをインターネットで予約した。


12月30日の夜、ぼくは函館へ帰省するために東京駅丸の内南口のバス乗り場へと向かった。バスは夜の11時半出発で、集合時間は30分前となっている。集合場所は東京中央郵便局前。集合時間?集合場所?なんだか違和感があった。バス乗り場が東京中央郵便局前で、30分前に乗車しろということなのか?と思ったら、そう、これはあくまでツアーなのだ。みんな揃って青森へ行こう!のツアーだから集合場所と集合時間があるわけだ。決まったバスターミナルがあるわけではなく、夜間は交通量も少ない丸の内の路上でバスは待機し、みんな揃ったところで乗り込むというわけだ。団体行動を乱しちゃいけないバスツアー。この時はまだ、こんなにも過酷なツアーになるとは知る由もなかった。


今にして思えば、それは初っ端からのつまづきだった。集合時間の午後11時に遅れないように自宅を1時間ほど前に出て、10時45分には東京駅に着いていた。「まだ少し余裕があるな。よし、今のうちに用を足しとこう」そう思いながら案内板を頼りに東京駅構内のトイレを探すと改札口近くにそれはあった。

「チップトイレ」

な?チップトイレぇ〜?普通の便所はないんかいな?
なんだか鬱陶しいのぉ。ま、とりあえず様子をみてみっか。

そのチップトイレなる気取ったトイレットを入口付近から覗くと(覗くな覗くな)、入ってすぐのところにコイン投入ボックスのような箱があって「御代は見てのお帰り〜」てな具合に「ここにチップを入れてください。」と書かれている。係員がいるわけでもなく、それは自己申告制で、別にチップを払わないからと言って罰せられると言うものでもないらしい。100円でも1円でも、入れたフリでもかまわないようだ。よっしゃ、オシッコしたろ。チップなんて払わんもんねーと思いつつ、いざ!イントゥ・ザ・トイレット。

あわわわ、なんやこれ、ずいぶんオシャレやん?

中はまるで積み木ハウスのこどもの城のような洒落た作りで、一つ一つが個室のようになっている。公衆トイレお決まりのズラーっと横一列に朝顔を並べた作りとはまるで違う。根が小心者のぼくはこれだけで怖気づいてしまった。「ま、別にいいや。どうせバスにもトイレは付いてるし、それほどしたいわけでもないもんね」

ぼくはそのまま何もせずにトイレから出てきたが、同じように入ってすぐに出て行く人はほかにもたくさんいた。みんな小心者なんだ。いやいや、そもそも日本にゃチップだなんて習慣はないから、金払ってまでションベンしようなんて人はまずいないのだろう。ああ日本に生まれてよかった。


さて、丸の内南口改札を出て集合場所とされている東京中央郵便局の方へ行ってみると、すでにたくさんの人が集まっていた。人はいるもののバスは見えず。本当にここでいいのか?郵便局前と言ってもかなり広い。その広い郵便局前に漫然と人が群がっていて、この人たちがみんなバスに乗るためにここにいるのかどうなのかもよくわからなかった。バス乗り場の案内板らしきものも見当たらない。

やや不安を感じつつ、もう少し先の方へぶらぶらと歩いて行ってみると、数人の緑色のジャンパーを着たスタッフらしき人たちの姿が見えた。そのスタッフらしき人の前には旅行者らしき人たちが何人か行列を作っており、乗車の手続きをしている様子。それがバスに乗るための行列なのかどうなのかよくわからなかったものの、とりあえずぼくもその行列の最後尾についた。

このバスはチケットレスで、インターネットで予約をすると同時に代金はカードで引き落され予約確定のメールが送られてくるのだが、そのメールをプリントアウトして当日持参することになっている。なんとも心もとないが、これが21世紀スタイルなのだろう。(ホントか?)

ぼくの順番が回ってきてスタッフへメールのコピーを渡すと、名前の欄だけを見て「はい、フカマチヤスジさまですね。青森行き5号車です。あとでご案内しますから向うの灯りのついている辺りでお待ちください」と言いながら、コピーの紙に赤ボールペンで「青5」と走り書きして渡してくれた。ほっほー、これが21世紀スタイルかあ・・・なんとも心もとないのお、、、今ひとつの不安を抱きながらも言われたように郵便局前の灯りの下でぼーっとお呼びのかかるのを待っていた。どうやらここは青森行きのバスだけではなく、日本各地へ向けて出発するバスの集合場所のようで、名古屋、大阪、四国、九州などみんな一緒くたに集合しているようだ。

15分ぐらい待っているとスタッフの叫ぶ声が聞こえてきたが、遠すぎて何を言っているのやらわからない。スタッフの近くまで行ってみると乗車の案内をしているようなのだが、大事なところを聞き逃してしまったか?うーん、なんとも心もとなし。しばらく案内を聞いていると「青森行きご利用の方はその横断歩道を渡って左側になります」と言っているのが聞こえた。そうかそうか、渡って左ね。

横断歩道を渡って左の方へ行ってみると数人の人だかりがあって、なんだかこじんまりとしたバスの止まっているのが見えた。「わー、ずいぶんオンボロだな」正直な第一印象がそう。やっぱり安いもんはそれなりなんだな。以前利用したことのある片道1万円のバスはもっと豪華でどっしりしていたが、これはちょっとしたバス遠足で使われそうなバスだ。ま、贅沢は言っとれん。でもちょっと待てよ、これじゃあトイレなんて付いてないんじゃないの?乗車してみてもやはり外観どおりの質素なバス。もちろんトイレなんて付いていない。こうなるとさっき用を足しそこなった事が悔やまれる。それほど尿意はもようしていなかったくせに急になんだかオシッコをしたくなってきた。ま、途中のパーキングエリアまで我慢できるだろう。気にしない気にしない。


バスは座席が決められていて、乗り口に座席表が張り出してあった。ぼくは一番後ろの5人掛け部分の右から二番目の席。両隣はもちろん男。乗客は男女半々くらいだったが、席はツアー会社の方で連れ合い以外の男女が隣同士にならないように考慮して決めているらしい。ぼくの左隣はやや太めのおじさん。おじさんと言ってもまだ40代そこそこといった感じ。(十分にオジサン?)そして右隣はまだ20代そこそこといった感じの細くて背の高い若者。背が高い分足が伸ばせず窮屈そうだ。ぼくも左隣が小太りさんのためにかなり窮屈。肩と肩が重なり合っているような状態。この先何時間もこのままの体勢なのかと思うと気が重い。


席についたもののバスはなかなか発車しない。予定時刻の11時半はとっくに過ぎている。こんなことなら10分前集合でよかったんじゃないの?と不満を感じながらも大人しく待っていると前の方で何やらもめているようだ。バスの乗務員が中ほどの乗客に名前を聞いて席を確認している。どうやら座る席を間違えた客がいるようだ。本来そこへ座るはずの間違えられた客はバスの乗り口に突っ立ったまま乗務員に訴えている声が聞こえる。

「私がそこに座りたいんですけど、こいつがいるから座れないんです!」

こ、こ、こ、こいつ?
なんだこいつ。

ぼくはその言葉にイラっときてその客を見てみると、それは銀縁メガネの神経質そうな20代後半と思える女性客だった。席を間違えていたのは彼女よりも大分若そうなこちらも女性。前後ひとつずれて座っていたようだ。 「どうせみんな同じところまで行くんだし、どこだっていいじゃねえか、空いてるとこ座わっとかんかいボケ!」きっとその女がぼくの目の前にいたなら言葉に発してしまっていただろうけれど、こちらは一番後ろ、彼女は一番前にいたのでその言葉を発することはなかった。不幸中の幸い?とでも言おうか、もしそんなことを言っていたなら、どよーーーんとした空気のままバスは長旅に出るところだった。

座席の間違いも難なく解決し、午前0時を回った頃、最後の客と思われる男性客が乗り込んだところでようやく出発の準備が整ったようだ。おいおい、お前待ちだったのかよ。こちとら1時間以上も前から来とるんやでー。

いよいよ出発だ。乗務員がマイクで案内をはじめた。ちなみにこのバスの乗務員は二名で添乗員はいない。二名の乗務員とは運転手のことで、この二人の運転手が交代で運転しながら目的地までぼくたちを運んでくれるのだ。

「えー、みなさま、大変長らくお待たせいたしました。それではこれからバスは青森駅へ向けて出発していきます。・・・・・なお、12時を回りましたら車内灯りは消灯させていただきますので、、、あ、もう回ってるか・・」

「ぷっ」
右隣のノッポ君が思わず吹き出している。

おいおい、こんなことで笑えるなんて、なんて幸せなやつなんだい君は・・・と思ったが、もちろん思っただけで言葉には発していない。さっきのイライラさせる神経質女とはうって変わって、ほのぼのさせるのどかな若者だ。

「それでは、首都高に乗りましたら消灯させていただきますのでよろしくお願いします」
午前0時15分、バスはようやく動き始めた。


10分もしないうちにバスは首都高に入り車内は真っ暗になった。もちろん本を読むこともできないし、チビチビ飲みながら行こうと思って用意してきた焼酎のミニボトルやつまみを出すことも、肩と肩をくっつけ合ったこの狭さの中ではできない。できることと言えば、ポケットに入れておいたMDウォークマンを聞くか眠るだけだ。この時間はいつもならまだギンギンに活動している時間なので眠れるはずがない。とりあえずMDでも聞こうと思ってヘッドホンを両耳に突っ込み再生ボタンを押す。曲は友部正人の「どうして旅に出なかったんだ」
どうして旅に出なかったんだ坊や あんなに行きたがってたじゃないか
どうして旅に出なかったんだ坊や うまく話せると思ったのかい

おいおい、この選曲かよ・・・
いや、これがまたいいんですわ。とくに旅にでる時にはね。
それはさておき、

おや?音が片っ方しか出ないぞ。左からしか聞こえない。接触が悪いのかと思ってプラグを何度かさし直したり、断線しそうな部分をこちょこちょいじってみたりしたものの、右側からの音はまったく聞こえない。ビリっとも言わないところをみると接触云々どころか、完全に壊れているようだ。片っ方しか聞こえないヘッドホンのなんと気持ちの悪いことよ。しかししょうがない。イヤホンだと思えばいいじゃないか。無理矢理自分を納得させて友部さんのお説教を左の耳から聞いていたのだった。


つづく


第二回 (2006.1.9UP)


真っ暗な中でぼーっと音楽を聞いているとだんだんうつらうつらしてきて、いつの間にやら眠ってしまったらしい。ぐーっと減速するバスの気配で目が覚めた。バスは最初の休憩ポイントである佐野パーキングエリアへ入っていくところだった。東京を出てからまだ2時間も経っていない。まだ佐野かよ、、、先は長いなあ。

なにはともあれ懸案事項だったオシッコの件を片付け、自分の席へ戻ってきてみると、隣の小太りさんとノッポくんはまだ戻ってきておらず座席は広々していた。おおそうだ、今のうちに焼酎のボトルとつまみのセッティングをしておこう。

ぼくは座席の下に押し込んであったバッグを引っ張り出すと、中から度数21%の500ml入り焼酎ミニボトルと、つまみの王様アタリメの袋を取り出して、ボトルは前座席の裏側に付いているゴム網の中へ挟んだのだが、アタリメの置場が見当たらない。

いかん、早くしなければみんな戻ってきてしまう。何かいけないことをやっているような気になってあたふたしてしまう。つまみはあきらめるか・・・いや待てよ、そうだ、食べる分だけ取り出してティッシュにでも包んで胸ポケットに突っ込んでおこう。グッドアイディア!そこでさっそくピリリとアタリメの袋を開ける。

モワアアア〜ン

ナナナなんということだ!辺り一帯にイカの臭いが充満し始めたではないか!イカくせぇー。あわわ、これはマズイ、これはマズイですよ。みんなまだ戻ってきてくれるなよー。想定外の展開に動揺しながら急いで袋の口を抑えてしまおうと思ったものの、やはりまだつまみをあきらめきれずに一掴みのアタリメを取り出した。

モワアアア〜ン

急げ!やつらに気付かれるな!そんな切羽詰ったような緊張感の中、掴み取ったアタリメの臭いがもれないように急いでティッシュで包み胸のポッケに突っ込んで、残りのアタリメの袋の口はロクすっぽ閉めないままバッグの奥のほうへ突っ込んでチャックを閉めてまた座席の下へ押し込んだ。

ふぅ、やれやれ。ひと仕事終えたところでノッポくん、小太りさんの順に戻ってきたが、臭いはすでに消えている。いや、自分が臭いに慣れてしまっただけだったのかもしれないが、とりあえずふたりは留守中のぼくの行動には気が付くはずもなく、何事もなかったかのようにバスは再び動き出した。

動き出すと同時にバスの照明は落とされたので再び車内は真っ暗状態。待ってましたこの時を!・・・わしゃヘンタイおやじか・・・ぼくはボトルをゴム網から抜き出してコリコリっとプラスチックのスクリューキャップを開けると、クッと一口。くぅ〜うめぇ。21度くらいならストレートでも全然問題なし。もっとも何かで割ったりするような余裕もスペースもないからボトルのラッパ飲みは予定通りの行動だ。

そいでもって、そいでもって、アタリメアタリメ。この機を逃すまいとばかりにポッケからアタリメを一切れ引っ張り出して口の中へ。じゅわ〜〜〜うんめぇ。口いっぱいに広がるイカの味。まさに噛めば噛むほどのうまさだ。・・・と、同時に、

モワアアア〜ン

イケナイ、臭いがもれてしまっている。アタリメを一切れ取り出しただけでこんなにも臭ってしまうなんて、、、しかしもう後には引けない。続行あるのみ。

その時だ。左隣の小太りさんが動いた。
お?どうしたどうした?

なんと! いつの間に用意してあったのか、ゴム網のところから大きなマスクを取り出すとおもむろに装着したではないか! わー、やっぱ臭いんスカ!スイマセン、スイマセン。

シマッターという思いと、バレちゃっちゃしょうがないという開き直りの中で、ぼくはひとりチビチビくちゃくちゃと暗闇の晩酌を楽しんでいたのだった。


つづく。

第三回 (2006.3.2UP)


ぼくの座席は一番後ろだったのでバスの中は全体を見渡せたのだが、この四十数名の乗客の中で、酒を飲んでいるのはどうやらぼく一人だけのようだった。まあ人は人、気にすることもあるまい。それにしても、暗い中で正面を向いたまま、ただひたすら飲み続けるだけというのもなんだかアブナイアル中のような気もしたので、再び片っ方しか音の出ないMDウォークマンのヘッドフォンを耳に突っ込んで、今度は音楽ではなくてラジオ番組を録音したMDを聞きながらチビチビ飲ることに。

そう言えば、以前使ったことのある片道1万円のリムジンバスには各シートにヘッドフォン端子が付いて、十数チャンネルのメニューから好みの音楽や落語やラジオ番組などが聞けるようになっていた。そうだよ、何もすることのない車内ではラジオのDJのおしゃべりを聞いているのが一番だ。いや、一番か二番かは知らないけど、とりあえずラジオくらいは聞けるようにしておいてほしいものだ。もっともこれはあとになって気が付いたことなのだが、申込み時のバスの説明にはちゃんと「スタンダードバスを使用します。」と書いてあった。スタンダードバス、つまり普通のバスと言うことだ。なーるほど、言われてみればその通りだが、スタンダードバスだなんてカッコイイ言い方じゃなくて「普通のバスです」って書いといてくれなきゃ。

それはさておき、そのMDに録音しておいたラジオ番組と言うのは、あの大瀧詠一氏がDJを勤めていた伝説の音楽番組「GO! GO! NIAGARA」だ。それはもう30年位前に放送されていた番組だが、今から3、4年前にアーカイブとして期間限定の再放送をしていたので、それをしっかりと録音しておいたもの。これを聞いていれば退屈な車内の時間もあっという間に過ぎていくと言うものだ。

自宅のMDラックに並べてあった10枚ほどの「GO! GO! NIAGARA」の中から今回適当に選び出してきたこのディスクをセットして再生ボタンを押すと、大瀧氏の声は「ワタクシ大瀧詠一が自分の好きな曲ばかりをかけまくる60分!本日はクレイジーキャッツ特集をお送りします。」と言っている。おお、これはいいのを持ってきたな。特集はクレイジーキャッツか、こりゃまさにおあつらえ向き。
チョイト一杯の つもりで飲んで〜 いつの間にやらハジゴ酒
気がつきゃホームのベンチでゴロ寝 これじゃ身体にいいわきゃないよ
わかっちゃいるけどやめられない アホレ
スイスイスーダララッタ スラスラスイスイスイ・・・トキタモンダー
ときたもんだー♪
酔いもだいぶん回ってきてすっかり楽しくなってしまったぼくは思わず口ずさんでしまいそうになったが、いやいや、まだそこまでクレイジーになってはいない。隣で眠りこけている小太りさんとノッポくんをよそに、一人宴会状態のぼくを乗せたバスは北へ北へと進む。

そのうち無防備なまでに眠り込んだノッポくんは、こちらにもたれかかるような格好になってきた。重たいなあと思ってノッポくんの方へ顔を向けてみると、ノッポくんの頭は今にもぼくの肩の上にのっかりそうなくらいの所まで迫ってきていて、あやうくおデコにチュッとなりそうだった。わあー、おいおい頼むぜ、とは思うものの、旅は道連れ世は情け、袖振り合うも他生の縁、せっかく気持ちよさそうに眠っているところをぐっと押し返して起こすのもかわいそうだなと思いそのままの体勢をキープ。なんでこんなにラブラブモードにならにゃいかんねんと思いつつ、それでもバスは北へと進む。


さて、一人宴会が終わったぼくは浅い眠りの中で、バスがぐぅぅと速度を落としてノロノロと走っているのを感じていた。そうかと思うと、またぐぐぐと速度を上げたりしている。様子が変だな、料金所が近いのかな?などと思いながらも夢うつつをさまよっていると、バスはついに止まってしまった。ん?ナニゴトだ?うす目を開けてフロントガラスの方を見てみると、いくつもの真っ赤なテールランプの光が連なって見える。なんと渋滞。すんなりとは行かないな、まだまだ先は長いで。うんざりしながらふたたび目をつむっていると、乗務員の遠慮がちな、トーンの低い声が車内マイクを使って聞こえてきた。

「えー、みなさま、お休み中のところ申し訳ありません。この先雪のため通行止めとなっておりますので、バスは一般道へ降りてまいります。通行止めが解除になりましたらまた乗ることになると思いますが、到着時間は大幅に遅れるものと思われます。どうかご了承くださいませ」

なるほど、この渋滞は一般道へ降りるための渋滞だったのか。少し先には赤色灯を回転させたパトカーが高速道路の進行方向をふさいで一般道へ誘導している。やはり噂どおり通行止めだったんだ。ここはいったいどこなんだ?出口の案内板を見たかったのだが、窓にはすべてカーテンが引かれているし、フロントガラスからは微妙な角度で案内板が死角に入ってしまって見えない。バスは降りしきる雪の中、ワイパーを激しく動かしながら、国道四号線を北へ北へと進む。時間は午前4時。現在地もわからないままのぼくにできることと言えば、眠ることだけだった。

 ・・・・ ・ ・  ・  ・   ・   ・    ・

そろそろ夜も明けてきた頃、相変わらず雪は降り続いているものの、ようやく通行止めも解除になったようで、バスはインターへと向かう。もうすぐ朝の7時になろうかという時間。当初の予定では青森到着は9時だったから、遅れているとは言ってもけっこう来てるんじゃないのかな?と言う期待を持ちつつ高速道路上り口の案内板を見てみると『仙台方面→』と書かれていた。えっ?仙台方面ってことは、まだ仙台にも到達していないってことじゃないか・・・ガーーーン、、まだまだ先は長いで。もうこればっかり。そしてあとは眠るだけ。

じつはぼくの生活パターンは、寝るのはいつも朝の6時頃で起きるのがお昼近くというものなので、すっかり夜の明けたこの時間の方がよく眠れる。とは言え、周囲の人たちはごそごそと起き出してカーテンを開けたりしているのでまぶしくてしょうがない。ちっ、なんて健康的な人たちなんだ、いやそれが普通か・・・。そこでぼくはニットの帽子を目が隠れるくらいまで深く被ってアイマスク代わりにすると、これがなんともいい具合でよく眠れる。ぼくは無防備なまでに眠り込んでしまって、すっかりノッポくんに身を任せてしまっていたようだ・・・

寝ているうちにバスはどんどん進み、長かった旅も終わりが見えてきて、バスは最後の休憩ポイント津軽サービスエリアへと入って行く。

「それではここが最後の休憩地点となりますので、トイレの方はここでお願いします。それと車内で出たゴミもここで捨てていくようにして下さい。みなさま、車内美化にご協力お願いします。」

オイオイ、なんか違う気がするけど、、、車内で出たゴミをサービスエリアに捨てるって言うのはアリなのか?うーん・・・

ぼくは別にトイレへは行きたくなかったのだが、とりあえずバスから降りてみると、雪はすでに止んでいるものの、津軽の冬はさすがに寒い。ゴミはここで捨てろということなのでウーロン茶のペットボトルをゴミ箱へ捨てに行くとゴミ箱はゴミであふれかえっていた。ゴミ箱がゴミで埋もれているといった感じ。どのバスもみんなサービスエリアやパーキングエリアでゴミを捨てさせているのだろう。こんなことでいいのか?! ま、ぼくも捨てたけどね・・・、だってそうしろって言うんだもん。なにはともあれ、バスは終点目指して津軽SAをあとにした。立つ鳥跡を濁してます。


「みなさま、大変おつかれさまでした。途中通行止めなどありまして大幅に遅れてしまいましたが、無事青森へ到着いたしました。あと10分ほどで青森駅のターミナルの方へ到着できると思います。・・・あれ?青森駅でいいですか?アスパムの方がいい人、います?どっちでもいいんですけど、青森駅とアスパムと、どっちがいいですか?」

「・・・・・・・」  一同、シーーーン

「青森駅かアスパム、どっちにしましょう?」

「だからっ、アスパムってなんやねん!!」

ぼくは心の大声で叫んでいたが、残念ながら心の声は届かない。
やや長めの間が空いてから真ん中辺りの男性から声があがった。

「青森駅!」

「はい、わかりました。青森駅でいいですね。では青森駅のターミナルの方へ入ってまいります。どうぞ忘れ物のないよう、降りる準備をしてお待ち下さい。」

あとから調べてわかったのだが、アスパムとは青森駅近くにある「青森県観光物産館」のことで、ここの駐車スペースが通常夜行バスの乗り場として使われているらしい。なるほど、しかし急に「アスパムがいい人!」なんて言われても、みんながみんな地元の人じゃないんだから、頼みますよ運転手さん。なんだかこの人、天然ボケ・・・


アスパム

   ■   ■   ■   ■   ■

さてさて、長らく綴ってまいりましたが、なんやかんやありながら、昼の12時を少し回った頃、およそ3時間遅れてバスは無事青森へ到着しました。このあとぼくは青森駅で2時間待たされてから函館行きの特急列車に乗り換え、夕方4時頃、ようやくはるばるきたぜ函館の人になれました。乗り換えの際のボケボケ話や、復路、青森→東京のエピソードはそのうち番外編としてお送りできればと思っておりますが、思っているだけでお送りできないかもしれません。


めでたしめでたし。


THE END



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