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店長裏話
お手柄店長奮闘記 (2003.02.27UP)

1/12の放火事件発生以来、ここのマンションでは警備員を雇って厳戒態勢をとっていたようで、マンションのゴミ置場やエントランスには防犯カメラも設置されました。このマンションは昭和49年築のけっこう年期の入ったマンションなので外からの出入りも自由。今の時代には(こと東京では)物騒です。今回の放火騒ぎを受けてマンションの理事会ではエントランスをオートロックに しようという話も出ているとか。いいような悪いような、住人は余計な出費を強いられることになるのでしょうか。

それはともかく、厳戒態勢のおかげか、あれ以来騒ぎは落ち着きを見せていて、今週から厳戒態勢を解いていたらしいです。その矢先、昨日の夜9時頃です。またも出火。うちの店の2軒となりの部屋の庭に置いてあったプランターに火がつけられました。その1時間ほど前にも200メートルほど離れたところでボヤ騒ぎがあったので同一犯による放火に間違いないと思います。

第一発見者はなんとぼくです。いや、正確にはぼくの妻です。その辺の経緯からお話しましょう。

夜の9時頃でした。急に店の中に石油ストーブを消したときに出るようなニオイが充満してきました。うちで使っているのはガスファンヒーターとエアコンなのでそんなニオイは発生しません。なんだろう、まさか外で何か燃えてるんじゃなかろうなと思って急いで表へ出てみましたがとくに異常はない様子です。同じようなニオイは微かにしていますが店内ほどではありません。店内は 空気の循環が悪いのでニオイがこもるということもあるんですが。

それでまた店に戻って奥の部屋にいた妻に「なんか石油ストーブのニオイするぞ」と言うと妻は部屋から出てきて「あ、ほんとだ」と言います。ぼくはこのとき半分冗談で「まさか放火じゃないでしょうね」と言っていました。

妻は外へ様子を確かめに出ていくとすぐに戻ってきて「なんか燃えてるような感じだけど・・・」と半信半疑な感じでぼくに告げます。「え?」ぼくもまさかと思いつつ、もう一度外へ出て妻が示す方を見ると確かに焚き火でもしているかのような火の灯かりが見えます。その時点では炎はフェンスの陰になって いるため見えなかったけれど、その場所だけ橙色に明るくなっているのはわかります。

ストーブの空焚きでもしているのかもしれないなと思いながら確認のためにその庭の近くまで行くと、なんとメラメラと炎が上がっています。もちろん焚き火しているわけではなく、周りには誰もいません。フェンスに立てかけてあったちょっとした植木鉢を入れるようなプラスチックのカゴが燃えているのです。その部屋のカーテンの隙間からは灯かりがもれているので、中には誰かい るはずだけれど気が付いていない様子。これは一大事!まずは消火しなきゃ。

「おい、水水!水もってこい!」「え、水でいいの?」「うん、水でいい。あ、いや、消火器だ。消火器もってこい!消火器!」ぼくも焦っているため偉そうに命令を下します。

パタパタパタパタ・・・走りにくそうなサンダルをパタパタいわせながら妻は店内に消火器を取りに戻りましたが、炎を目の当たりにしている者としてはそのわずかな時間がとても 長くかんじます。待ちきれなくなってぼくも店の方へ走っていって

「はやくはやく!」「そんな早くって言ったって!」

急いでいる上にまだ早く早くなんて言われて妻も不平をもらしています。ぼくは消火器を奪い取るように受け取ると現場へ走りました。後ろから妻の声がします。

「電話は?電話!電話しなくていいの!?」炎の大きさから見て消し止めることはできるだろうと思ったぼくは「うん、しなくていいよ。管理人に知らせて来い!管理人!」

現場に戻ったぼくは消火器の安全弁を引き抜きました。しかし消火器なんて使うのは生まれて初めてのことです。これから先はどうすればいいんだ?辺りは薄暗くて説明書きも読めません。えーいままよ!わけもわからないままフェンス越しに消火器の噴射口を炎に向けて取っ手をぎゅっと握りました。それが正解だったようです。

プシューーーーーーーー

勢いよく白い煙のような粉末が噴き出すと炎は一瞬にして消えました。炎は消えているけれど消火器の噴射は止まりません。庭は白い煙でいっぱいになってしまっています。

あわわわわ、どうしたらいいんだあああ。

そのまま庭に向けて噴射しつづけるのもやばそうな気がしてきたので、フェンスこちら側の公園に消火器を向けると、無意味な消火剤は公園に噴射されつづけています。

あわわわわわわ

マンションの上の階の部屋からは何事かと顔を出している人もいます。間もなく噴射も終わりましたがあたりは消火器の煙で真っ白です。まるで大火事でもあったかのようです。

消火器はもちろん誰もが見た事はあると思いますが、実際に使ったことのある人はほとんどいないのではないでしょうか。中学の頃、年に一人か二人は必ず消火器をイタズラしてぶちまけてしまう馬鹿者がいましたが、そんな時くらいしか消火器を使うことはないでしょう。消火器なんて使わないに越したことは ないわけですし。しかし、いざという時のために使い方くらいはマスターしておいた方がいいかもしれません。だけど練習のつもりで実際に噴射すると大騒ぎになるかもしれないので要注意です。

さて、そこへ管理人が妻と一緒に小走りでやってきました。ぼくはやや興奮しつつ、ちょっと照れながら「消した消した」と言うと、「ああ、ありがとありがと。またやられたよー。場所はどこ?」と管理人。

ぼくは現場を説明してから店に戻り、飲みかけのコーヒーをすすっていると、まもなく一人の警官がやってきたのでした。

「第一発見者は旦那さん?」

ま、まさか、放火犯の容疑をかけられているのでは???

名前と住所と年齢を聞かれてメモされました。それが仕事だろうからしょうがないんだけれど、こちらはあまりいい気持ちではありません。とにかくそのときの状況を説明してくださいということで、現場まで行ってこうこうこうだったと説明しているとゾクゾクとおまわりさんが集まってきました。そのうちウ〜〜〜〜〜〜とサイレンを鳴らしながら消防車までやってきます。誰かが通報したのでしょう。近所の野次馬も集まってきて、ほんのボヤとはいえ、なんだか騒然としてきました。

ひと通り説明し終わったところへ本署の刑事らしき人が声をかけてきます。「第一発見者はあなたかな」「あ、はい」「どういう状況でした?お名前は?すいませんがおいくつで?」またさっきと同じ事を聞いてくる。オイオイと思いながらも同じ事を答え、切りのいいところでさっさと店に引っ込みました。

軽い興奮を覚えながら店の中で妻とああだこうだと話しているところへ今度はよくわからないけれどビル管理会社か消防関係と思われる上着を着た人がふたりできてまた同じような事を聞いてきます。今度は現場のイラストまで書かされる始末。いやはや参りました。

1時間以上たってからでしょうか、ようやくみんな引き上げて行く様子です。帰り際にさっきイラストまで書かせた人がやってきて「どうもありがとうございました。この辺では最近多いようですので気をつけて」とお礼を言いに来たのか注意しに来たのかよくわからないようなコメントを残して帰っていきました。

ところで、こっちは大騒ぎして消し止めたというのにその火をつけられた部屋の人はのんきなもんです。現場でぼくが説明している間もその事態にまだ気がついていないようで顔も出してきませんでした。てっきり留守かと思っていたらしばらくして庭に出てきて「あら、こわいわ」ととぼけたことを言っていました。もちろん消してくれてありがとうなんてその後も言ってきません。ま、別にお礼を言われたくて消したわけじゃないからいいんですけどね。

あとで管理人さんは改めてやって来て「ありがとうありがとう、消火器1本使っちゃったんでしょ。それはこちらからお返ししますから」と言って特大の消火器を持ってきてくれました。それを受け取りながら、う〜ん、こんな大きな消火器じゃちょっとしたボヤでは使えないなあと、消火器の威力を知ったぼくは思ったのでした。

後日その大きさの消火器をホームセンターで見かけたので値段をチェックしてみると5000円近くしていました。た、た、高い。そう言えばぼくの店にあったぼくが使った消火器も、もしものときのために以前買ったもので一番小さいタイプだったと思いますが1000円以上はしていたはず。こういうものこそ国で補助するべきではないのか!高い消火器を持ってたんじゃいざと言う時もったいなくて使えませんよ!あれ?なんか間違ってる??


THE END

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