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店長裏話

万引き少年の事件簿 (2004.07.10UP)

 プロローグ〜

万引き"未遂"事件発生。

小学生の兄妹だったんだけど、お兄ちゃんがやろうとしてた。
妹はまるで気付いていない。妹はいい子で 「クランプありますか」って聞かれたから「こちらです」って案内すると「うあー、あった!あったあった、おにーちゃんあったよー」って大喜びしてさっそく買ってくれた。それからお兄ちゃんはまだ本を探していたんだけど彼女は先に店の外へ出て行って買ったばかりの本を読んでたみたい。

お兄ちゃんはと言えば、あれこれ選んでたんだけど、なんだか防犯カメラを意識してる様子だったんで、あれ? と思って注意して見てたら、サッと持ち出せるようにと出口近くの棚にターゲットの本をスタンバイさせている様子。 スタンバイさせておいてからすぐに別の2冊の本をレジに持ってきてお会計。このあと帰り際にターゲットを持ち去るのはみえみえだったから、彼が出口へ向かう時に本の整理をする振りをしながら後ろからついていった。そして彼がターゲットに手をかけたその瞬間、隣の通路から彼の前に回りこんだぼくと彼の目とが合った。すると彼はハッとして、そのまま何食わぬ顔で店を出ていったんだけど、「もってっちゃダメだぞ」とうしろ姿に声を投げかけただけで見逃してやった。

盗るまで知らん顔してて捕まえることもできたんだけど、妹がいい子だったから、お兄ちゃんが捕まるところを見せるのもかわいそうだなと思って未遂で終わらせておいた。本当は捕まえて親に連絡した方が今後のためになるような気もするけど、彼にとってこのことがよかったのか悪かったのか。
彼は懲りずに今後も繰り返すでしょうな。


〜〜〜〜〜
さて、この万引き未遂事件から2ヶ月ほど経った日のこと、


今日の彼はひとりで来ていた。ぼくがほかのお客さんの応対をしていると、その隙を狙って彼がおなかに漫画本を隠しているのがモニターに映っていた。 すぐにオイオイと声をかけることもできたけれど、この前に引き続きともなるともう見逃すわけには行かない。ここでまた甘い顔をするとこれから先もエスカレートするだろうから本人のためにも今日は捕まえようと思って、彼がそのまま店から出ていくまで知らん顔をしていることにした。

すると間もなく彼は店から出ていったのですぐに後を追うと、ちょうど自転車に乗ろうとしているところだ。 彼はぼくが店から出て来たのに気が付くと、バレていたことがすぐにわかったようで、サッとおなかをめくり上げると隠していた本を取り出して
「あ、間違えました。買います買います」
なんて言う。慣れたものだ。

「おい、だめだぞ。ちょっと戻って」
「あ、すいませんすいません。買います。ちゃんとお金払います」
「うん、わかったからちょっと戻って」

彼は財布を取り出してお金を数えながら店の中までついてくると、カウンターの上にお金と割引券を出して
「この券が70円分であと140円です」と言っている。
ああ、この券は妹がコツコツ買いに来て貯めたもんなんだろうなあ。

前回の未遂事件以来、彼は来にくくなっていたのか、その後は妹がひとりだけでちょくちょく買いに来てくれていて、 自分の分と兄ちゃんに頼まれたであろう本とを買ってくれていた。そしてこの割引券はそのときに渡したのものと思われる。

「ま、これはいいや、電話番号は?名前は?」 と言って電話番号と名前を聞き出して「よし、じゃあ電話するからな」と受話器に手をかけると 「あ、間違えました、ちがいます。電話違います」とあわてている。 思ったとおり嘘をついてたわけだ。

「おい、嘘つくな。で、電話番号は?」
「えーと、うーんと・・・」
「おい!てめえんちの電話番号もわかんねえのかよ!」

やさしく言っているといつまでもなめているのでここらでちょっとビビらせてやろうと語気を荒げると、案の定びっくりしてちゃんと答え始める。

「嘘じゃないな」
「はい、本当です。でも電話は繋がりません」
「あ?繋がんないってどういうことだよ。これも嘘か」
「いや、嘘じゃないです。でも本当に繋がりません」

とにかく電話をしてみると本当に繋がらない。
"この電話はお客様の都合で現在繋がりません・・・"というメッセージが流れるだけ。
「なんでつながんねんだよ、え?ちゃんと繋がる電話教えろ」
「わかりません。でも繋がんないんです。ほかにはありません」
「家に親はいるのか?」
「いません」
「いつ帰ってくんの?」
「わかりません」
「なんでわかんねーんだよ!」
「いつもバラバラだから。今日は何時かわかりません」

こいつ、なめてるな。

「じゃあ、昨日は何時に帰ってきたんだ?」
「うーんと、えーと、10時・・・だったかな?6時・・」
「昨日の事もわかんねえのか!」
「あ、6時です。6時、6時」

まだ6時までは1時間以上あったのでどうしたもんかと思って
「こまったねえ、電話も通じないとなると・・、住所は?」
「えーっと、うーんと、えーっと・・・」
「自分ちの住所もわかんねえのか!」
「あ、いや、○町、○町、○町1の2の3です」
「嘘じゃないだろうな、ということはそこの○町小学校行ってるのか?」
「はい。・・・あ、いや、△町小学校です」
「え?△町小学校?△町小なんてあんの?」

そう言いながら壁に貼ってあるこの付近の地図を調べてみると確かにあった。○町小学校とは直線距離で300メートルほどしか離れていない。 あとでよく地図を見てみると小学校はずいぶんたくさんある。300メートル間隔位であちこちに点在していた。どうりで一校あたりの生徒数が少ないはずだ。ずいぶん無駄な感じがする。それにそんなに細かく区分されたんじゃ子供同士の繋がりも限られてくるだろうし、人との付き合い方にも偏りができるのではないか?
・・・と、ここではそんな教育論はおいといて、

うーん、学校へ電話するのもなんだしな、どうしようかな・・・
「こまったねえ、どうするかな・・・」と言いつつしばし考えていると、彼はポケットにしまってあった腕時計を取り出して時間を確かめると、うんうんとうなづきながら「あー、そうか・・・」とひとりごとを言っている。

「ん?どうかしたのか?」
「え、いや、5時までに帰んなくちゃだめなんです」
「なんで?」
「いや、ちょっと用事が・・・」
「どんな用事?」
「えっと、帰って勉強とかしなくちゃだめなんで・・・」

こいつ余裕かましてんな。
かといっていつまでもここに留めておくわけにもいかないし、うーむ、あ、そうだ、

「お母さんは携帯持ってないのか?」
「え、いや、持ってますけど、出れないと思います」
「まいいや、じゃ、番号おしえてくれる?」
「うーんと、えーっと・・・・・」
「自分の母親の携帯番号ぐらいわかんだろうがっ!」
「はい!090-****-**** です。でも出ないと思います」

そこへほかのお客さんがやってきたので彼にはおもてへ出て待ってるように告げる。とりあえず彼の財布は預かってあるから逃げる心配はないだろう。と言っても中身は小銭の140円と70円分の割引券が入っているだけだが。

彼をおもてで待たせている間にさっき聞いた母親の携帯へ電話を入れてみる。
トルゥゥゥゥゥ・・トルゥゥゥゥゥ・・ピッ あ、繋がった!

「ハア〜イ、お電話ありがとう!でもごめんなさ〜い、いま電話に出られないの。ご用件は留守番電話に入れておいてね。ごめんね、電話してくれてあ・り・が・と」
・・・ピッ !

なんじゃこりゃぁぁあ、あのガキゃあ、またウソ教えたんじゃないだろうな。 でもこの母親もまさかこんな電話がかかってくるとは思っていないだろうからプライベート用の設定にしてあるのかもしれない。そこでとりあえず伝言を入れておくことにする。

「えー、こちらはブックショップ小猿店と申しますが、福田様(仮名)でよろしいでしょうか?えー、息子さんの裕次郎君(仮名)が万引きをしてしまいましてですね、それでご連絡させていただいた次第なんですが、これをお聞きになりましたら折り返しお電話いただけますでしょうか、電話番号は****-****です。わたくし、ブックショップ小猿店の、、、」

ピッ!
あ、切れた!

長すぎたんだな、名前を言う前に切れちゃった。でもまあいいか、とりあえず用件は伝わっただろう。まったく関係のない人だったらどうしよう・・・ま、しょうがない。でもこれで彼をこのまま帰してしまって全部嘘だったらこまるしな・・・、近所らしいから一緒に家まで行ってみるか。そこで店番は女房に任せて彼の家まで一緒に行ってみることにする。

「お母さんの留守電に入れといたから。あとで電話くれって言ってある。あの番号は嘘じゃないだろうな」
「嘘じゃありません。本当です」
「そう、でもさっき言った住所も本当かどうかわかんないからな、一緒に君んち行こう」
「はい」

彼は素直に返事をすると乗りかけていた自転車から降りて、ぼくと並んで自転車を押しながら自分のうちへと向かって歩き始めた。

「君は何年生だい?」
「六年です」
「そうか、六年か、○町に住んでるのに△町小へ行ってんの?」
「はい、引っ越したんで」
ま、こうして家まで案内しているくらいだから嘘じゃないんだろうな。

そこへ彼の友達と思われる少年ふたりが自転車でぼくたちを追い越していった。彼は片手を上げて「よぉ」と軽くあいさつをしている。

「ねえねえ君たち!」ぼくは彼らを呼び止め、「君たちこの子の友達かい?」
「はい・・、そうですけど・・・」
彼らはいぶかしげな顔をしながら答えている。
「△町小学校の子?彼は福田裕次郎君で間違いない?」
「はい・・、そうですけど・・・」
やはり何事かといぶかしがっている。

そこへ、少年たちの仲間はまだほかにもいたらしく、自転車に乗った5,6人の少年たちが後ろの方から追いついてきた。

「どうしたの?裕次郎、どうしたの?」「本屋の人じゃん、ほら、あそこの本屋の人」
少年たちはざわついている。
「みんな彼の友達なの?そう、ありがとう、いや、なんでもないなんでもない。ありがとね」

そう言ってまた彼と二人並んで歩き始めたが後ろからぞろぞろと少年探偵団はどこまでもくっついてくる。なんでこんな少年探偵団を引き連れてんだオレは・・・と鬱陶しく思いながらも、そのうち帰るだろうと思って探偵団を気にせず歩いていると 「やっぱオレついていくのやめよ」「おれも」「オレも帰ろ」とみんな散っていってくれた。やれやれ。ところが最初に呼び止めた二人だけは心配そうにどこまでもついてくる。

「ここです」
いよいよ彼の家の前まで来ると友達は心配そうに
「ねえ、どうしたの?裕次郎、どうしたの」
「うん、なんでもない」と彼は答えるが友達は不安げな顔をしている。
「この子ね、ちょっとわるい事したんだよ。じゃあね、ありがとね」
そう言って半ば強引に少年たちを帰らせてから彼に話し掛ける。

「いま本当に家には誰もいないのかい?」
「はい。あ、妹はいるかもしれません」
「よし、じゃあもう嘘じゃないことはわかったから、お母さんからは電話がかかってくることになってるけど、お母さんが帰ってきたら自分でも言うんだぞ。もしお母さんが知らなかったらこんなことがあったからここのお店に電話するようにって言うんだぞ。いいか」
彼の身元は確認できたのでぼくはそうい言い残して店に戻ってきた。

トゥルルルル・・・
店に戻ってしばらくすると電話が鳴る。

「すみません・・、福田裕次郎の母親です・・・」
「あ、どうも。ええ、はい、裕次郎君が万引きしてしまいましてですね、今回が二回目だったもんですから捕まえておうちの人に連絡した方がいいだろうと思ってご連絡させて頂いた次第なんです」
「えっ、二回目なんですか!」
「ええ、まあ、二回目と言うか、一回目は盗る前に気付かせて未遂というかたちで終わらせたんですけど、今回またということで、これはちゃんと捕まえて注意しないといつまでも繰り返しちゃうと思いましてね、ここでちゃんとお母さんのほうからも注意してもらえればもうやらないと思いますから」
「すみません、よく言い聞かせておきますから・・。失礼ですけど、お店はどちらに?」
「○町小学校のとなりのブックショップというところです」
「ああ、はい、子供からそこに本屋さんがあるって聞いてました。ほんとすみません。もしまた今後息子がお宅様に行くようなことがあったらしっかり目を光らせておいてください」

おいおい、ちょっと違うだろう・・・
とは思ったものの、言いたいことはわかるのでその失言は聞き流しつつ、
「ま、これからも利用してもらって構いませんので、ぜんぜん出入り禁止だとかそういうことではありませんから。盗ったと言っても200円くらいの安いもんですから、お母さんのほうから注意しておいてもらえればそれで結構ですから」
「いえ、金額の問題じゃないと思います!」
ピシャリ。
おっと、こんどはこちらがたしなめられたような感じが・・・
ま、これも聞き流しつつ、
「わざわざこちらまでいらしてくださる必要もありませんから、お宅で注意しておいてください」
「ありがとうございます。すみませんでした。よーく言い聞かせておきます」
「では失礼いたします」


 〜エピローグ

以前やっぱり似たようなことがあって、そのときも「わざわざこちらまで謝りにくる必要はありませんから」と言ったんだけど、「いえいえ、そういうわけにはいきません!」とわざわざ菓子折り持って謝りに来たお母さんもいたなあ。いや、今回もそうしろと言ってるんじゃなくて、そういうこともあったなあと・・・。

でも実際、直接謝りに来られるとこっちとしても恐縮するし、ほかにお客さんがいるときだったりすると逆にちょっと迷惑だったりもするから、本当に来なくていいと言ってるときは来てくれない方が助かるって言うのが本音。性質(タチ)の悪いやつで本当に頭にきてるときだったらこっちから本人連れて謝りに来いって言うしね。性質の悪いやつの場合は親も性質悪かったりするけど。

こういうのもあった。
「こうやってお母さんと一緒に謝りにきたことだし今回は被害届は出しませんから」と言ったら「すみません、ありがとうございます。ほら、あんたもちゃんと御礼言って!よかったじゃない、警察に届けられなかっただけでもよかったと思いなさい!」だって。あきれてしもうたですよ。この親じゃ・・・ってね。見た目で人を判断しちゃだめだけど、見た目もケバイ母ちゃんだったし。

最近の子供たちの乱れを社会のせいだなんだという人も多いけど、やっぱりまず第一に親の責任ではないかと思うのであります。


THE END


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