いまどきの小学三年生 (2005.03.19UP)
商売柄これまで数々の万引き事件と遭遇してきたぼくだけど、今日のはさすがに驚いた。驚いたと言うか、えーーっ!まじぃーー!てな感じ。聞いて驚いてください。ナント、小学三年生の女の子がエロエロビデオを万引きですよ。えーーっ!マジっすか!てな感じでしょ、まさに。
まだ身長120cmくらいのちっこい女の子と、もうちょっと背が高い女の子とのふたり連れ。実行したのはちっこいほうの子で、背の高いほうの子は嫌がってたような、やめなよみたいな感じだったようにも見えたけど、あわよくばってのがあったのか、積極的にやめさせようとはしていなかった。
それでは、その顛末を順を追ってお話しましょう。
ことの始まりは、今になって思えば昨日にさかのぼります。いつも店の前のマンション共有スペースで遊んでいる子供たちの中の女の子グループ5人ほどが珍しく店の中に入ってきてわやわやと本を見ています。どうせ買う気のないのはわかってますが、別に追い出すこともないだろうと思って知らん顔をしていました。するとその中のひとりの子がやたらとアダルトコーナーに興味を示していて(この子が今回万引きした子だったわけですが)、コーナーの入口付近から中を覗き込んだり、少し中まで入って行ったりしています。こんな子供でも興味があるんだなと思いながらも、入口付近からこそこそと中を覗き込むくらいは大目に見ようかと思って相変わらず知らん振りしていましたが、そのうちほかの子たちもわやわやとアダルトコーナー付近へ集まりだしたのでこりゃいかんと思って、カウンターから大きな声で「こらぁ、だめだよ」と言うとみんなあわてて外へ出ていきました。まったくよぉ、最近の子はみんなこうなのか?と女房とふたりであきれてしまいました。
そして今日、午後3時頃です。研磨した本に付いたホコリをパタパタはたく作業を店先でしていると女の子がふたりやってきて、その作業を見ながら「新しく入ってきた本だ。うわー、いっぱいあるぅ」なんて言いながらニコニコしています。ぼくもいい子たちだなあと思って微笑を返しながら、彼女たちが店の中へ入って行ってもそのまま作業を続けていました。その時間、店にはぼく一人だけだったので、店先に出ていると店内は無人となるわけですが、外からでもお客さんが今どの辺にいるかというのはわかりますし、いい子たちだし大丈夫だろうと思ってとくに警戒はしていませんでした。
はじめのうちはコミックコーナーであれこれ見ていたようなのですが、そのうち「ほらほら映ってるでしょ?」などと言いながら、ひとりが防犯カメラの前に立って、もうひとりがモニターの画面を見てわいわいとはしゃぎ始めている様子です。こりゃいかんなと思って早々に作業を切り上げて店内に戻りました。
彼女たちがはしゃがないようにけん制しながら、レジカウンターの席で作業をしつつ、モニターで彼女たちの動きを見るとはなしに見ていると、小さいほうの子がやはりアダルトコーナーに興味を示しています。このとき初めて「この子たち昨日の子たちだな」と気がつきました。
小さいほうの子(仮名-よし子)がまたアダルトコーナー入口付近から中を覗いています。背の高いほうの子(仮名-たか子)を手招きして呼んでいますが、たか子ちゃんはブンブンと首を横に振って近づこうとしません。よし子ちゃんはひとりでアダルトコーナーの入口から少しだけ中に入って行きました。そこには中古ビデオが並べてあるのですが、よし子ちゃんは背が低いためカメラの死角に入ってしまって何をしているかはよくわかりません。入って行っちゃたんじゃ早めに注意しなきゃだめだなと思って、まさに注意しに行こうとしたところで、よし子ちゃんがコーナーから出てきました。
やれやれ、と思ったのも束の間、なんとビデオらしきものを手にもっているではありませんか。え?まさか?しかしそれを買うなんてことはもちろんありえませんし、それ以前に許されないことですから、盗ろうとしているにちがいありません。
しかしここが難しいところです。ここですぐに「おいおい、そんなものもってきちゃだめだよ」と注意して万引きをさせないのは簡単なことですが、そうすると、今この時は何事もなく終わっても、また同じようなことを繰り返してしまうでしょう。ここで現場を押えてお灸を据えたほうが本人たちのためにもなるのです。そうこう思っているうちによし子ちゃんはさっさと店の外へ出て行って「はやくはやく」とたか子ちゃんを呼んでいます。もはや躊躇している余地はありません。すぐに後を追うとよし子ちゃんは店の入口でたか子ちゃんの出てくるのを待っているところでした。
「ちょっとちょっと、もってっちゃだめだぞ」
と言いながらよし子ちゃんを見ると、手には何ももっていません。
あれ?どこにやったんだろうと思って辺りを見渡すと、店頭のラックの上にそのビデオがポンと置いてありました。
『超美人淑女 ●●狂い編』
「ちがうんです。もってきたんじゃないんです」
「ちがうって、実際ここにあるじゃない」
「落ちてたんです。それを拾って戻しに行こうとしてたんです」
「おい、ウソを言うなウソを。こんなもん落ちてるわけないでしょ。君が手にもってたの見てたんだからね。盗ろうとしたんでしょ」
「盗ろうとしたんじゃないです。落ちてたの拾って手にもってたら、外に友だちが通るの見えたんで、渡すものがあったんで慌てて手にもったまま飛び出してきたんです」
次から次へとウソがつけるもんだなあと思いながら、
「渡すものって何?」
「あの、えっと、友だちから預かってたもので、渡そうと思ってもってたんです」
「その友だちどこにいるの?」
と問い詰めていると3人の女の子たちが店の前を通過していくのが見えました。今やってきたところで、さっきから行ったりきたりしているわけではないはずなのに、なんともタイミングのいいことです。
「あ、あの子たちです。あの子たちに渡すものがあったんです」
ぼくはその3人の女の子たちに声をかけました。
「ねえ、君たち。この子がなんか渡すものあるんだって」
「え?なになに?」と言いながら3人はこちらにやってきました。よし子ちゃんはサッとその子たちのほうへ駆け寄っていって、しょっていたリュックを開いて何かを見せながら話しています。ぼくには見られないようにコソコソやってましたが、ちょっと覗いてみたところ、とくに渡すものなんかはなくて、ノートのようなものを見せながら「これね、ナントカちゃんがどうしてこうして」と取り繕ったようなことを話しています。とりあえずやりたいようにやらしておこうと思って、今度はたか子ちゃんに話を聞きました。
「君はあの子が盗ろうとしてるのをわかってて何も言わなかったの?」
「ちがいます。手にもってるの知りませんでした」
「知らないわけないでしょ。君たちがふたりでいるところもちゃんとカメラに映ってるんだよ。あの子に呼ばれても君はいやいやって首振ってたでしょ。君たちそこの○○小学校の子かい?」
「そうです」
「何年生?」
「三年生です」
「この子たちもみんな三年生なの?」
「そうです」
ひぇー、幼いとは思ったけど三年生とは、、、内心やや動揺しつつ話を続けます。
「君は嫌がってたのに、ちゃんと注意しなきゃだめでしょ。しかもこんなものだよ。もしうまくいったらふたりで見ようとしてたの?」
「見ようとしてません。落ちてたの拾ったって言うから、早く戻してきなって言ったんですけど・・・」
ぼくがたか子ちゃんと話をしている間もよし子ちゃんは通りかかった3人の友だちといつまでも話しつづけています。
「ねえ、早く渡すもん渡してよ。渡したら戻ってきて。まだ話あるから」
よし子ちゃんにクギをさすと間もなく戻ってきました。
「渡し終わりました」
「この子はちゃんともとに戻せって言ったって言ってるよ」
するとたか子ちゃんは自分の正当性を証明するかのように「わたし、戻しなよって言ったよね」とよし子ちゃんへ言います。
ぼくはだんだんと言い逃れができなくなってきたよし子ちゃんへ向かって
「もうウソはつかなくていいから、盗ろうとしたんでしょ、万引きしたんでしょ」
「ちがいます。落ちてたの拾ってもとに戻そうとしてたんです」
「じゃあ、どこに落ちてたの?その場所教えてよ。ほら、一緒にこっちきな」
そう言いながらアダルトコーナーの入口のところまで連れてくると「ここらへんです」と当然ながらありえない場所を示します。
「こんなとこにビデオが落ちてるわけないでしょ。これはここにあったんでしょ、ここからもってったんでしょ」
ビデオの棚はいつも隙間なく並べているので、そのビデオを抜いたところはすぐにわかります。
「ウソばっかりつくなよ。ちゃんとカメラに映ってるんだからね。君はこの子を手招きして呼んでたでしょ。ちゃんとわかてるんだからね」
本当はカメラの死角に入っててビデオを抜いた場面は見ていませんが、目視していないだけで抜いたのは明らかです。このままいつまでもウソの論破を続けてもしょうがないのでぼくは最後の締めにかかりました。
「こんなときはなんて言うのかな?」
「申し訳ございませんでした!」
間髪入れずよし子ちゃんの口から謝罪の言葉が発せられました。
『申し訳ございませんでした』
なんとも子供らしくない言い方ではありませんか。ぼくはまたちょっと驚いてしまいました。「ごめんなさい!」と言うかと思っていたところへ「申し訳ございませんでした!」と言って深々と頭を下げたのです。たか子ちゃんも続いて「すみませんでした!」と言って頭を下げました。すみませんでしたはまだ普通ですが、小学三年生の口から出た「申し訳ございませんでした」にはずいぶん違和感を感じました。こんなビデオを盗ろうとするくらいだからやっぱりかなりませてるのかなと思いながらも、とりあえず罪を認めて謝ったので最後のお説教です。
「いいか、こんなこともう二度としちゃだめだぞ。本当なら親と学校へも連絡しなきゃだめなところだけど、君たちもこんなもの盗ろうとしたことが知られたら嫌だろう?今回だけは言わないでおくから。今度こんなことあったら許されないんだからね。ほかに誰かこんなことをする友だちがいたら今度は君たちが注意しなきゃだめなんだぞ。いいか、わかったな」
「はい、申し訳ありません。二度といたしません」
目にいっぱい涙を浮かべたよし子ちゃんはあいかわらず大人びた言い回しです。
「よし。じゃあもういいよ。今度はちゃんとお金をもって、お客さんとしてきてね」
「はい。今度はブラックジャックの第6巻をぜひ買いにきたいと思います」
ずいぶん具体的なことをたか子ちゃんは言います。
「うん、そのときは歓迎するよ。じゃ、もういいよ。もうしちゃだめだよ」
さて、親へ連絡しなかったのは間違っていたでしょうか。ぼくには子供がいませんから、こんな時の本当の親の気持ちはわかりませんが、小学三年生の娘がアダルトビデオを万引きしたなんて知らせが入ったらいったいどういう心境になるのでしょうか。これこそ嘘も方便、この場でうまく収まったことですから、親へは知らせないほうが万事うまく平和に収まるのではないかと思うのです。反省の色も何もないような子だったなら話は別ですが、今回の場合はこれで良かったと思うのです。
と書きながら今ふと思いつきました。やはり連絡してあげることによってその親が自分の子供の家庭環境を省みるきっかけになるかもしれないなと。そういうことを犯させてしまった原因は家庭環境にあるのかもしれません。その改善こそが根本的な解決に繋がるかもしれないなとも思いました。考えれば考えるほど難しい問題です。
ぼくのほうにも多少反省すべき点はあります。子供がアダルトコーナーへ近づいてもすぐに注意をしなかった点です。と言っても、もちろんいつも早めに注意はしています。今回は万引きという事件が絡んだためにこんなことになってしまいました。しかし先にも述べたとおり、ビデオを手にもった時点で注意をしていたら「落ちてたから拾って直そうとした」と言われてそれっきりだったでしょう。そして過ちを繰り返してしまうのです。
兎にも角にも、小学三年生の女の子がアダルトビデオを万引きしようとしたという事実に驚きました。いったいどうなってしまうのかニッポン。なんでもかんでも社会のせいにするのはすごく嫌なんですが、うーん、こうなると家庭環境だけの問題とは言えない気もするなあ。
アダルトビデオを売るほうにも問題がある? いや、それは論点が違うような気もするけど、とにかく、驚きの事件でした。
THE END
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