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かつあげ店長の事件簿 CASE 7〜走る店長の巻〜( 2002.11.22UP)

事件発生:2002.11.17 20:30頃

けっこう長居の客だった。
とくに警戒はしていなかったのだが、アダルトコーナーへは誰が入ってもとりあえず注意を払っている。

ずっとあれやこれやと手にとっては棚に戻すをやっていて、3〜40分くらいたった頃だろうか、ようやく決めたような感じで1枚のDVDを手にとって隣の棚へ移動した。そしてさらにもう1枚選んでいる様子。いちおう注意を払って見ていると、さっき手にしたはずのDVDが消えている。

あれ?ま、ま、まさか。でもきっとどこかに隠したに違いない。1枚は盗って他の1枚をカモフラージュで会計するパターンかな、もしそうなら会計の時に「お客さん、さっきもう1枚持っていたと思うんですけど」って聞いてみよう。それで持っていなければ失礼しましたで済むし、持っていれば2枚とも買わせればいいかな、とにかくもう少し様子をみよう。

と考えていた矢先、さらに2、3枚のDVDを手にするとそのDVDの束をまとめて腹の中に入れた。これはもう明らか。カメラの真正面だったし間違いない。こうなったらもう様子を見ようなんて段階じゃない。すぐに奥の部屋にいる女房に「110番しろ!」と一言伝えると、さらに監視続行。するとまたしばらくDVDを選んでいる様子で、2、3分すると1枚のDVDを手に持ってレジまでやってきた。

「これお願いします。」と彼。
ぼくは彼の顔を見つめながら、
「これはいいんだけど・・・」と言うと、彼はニヤニヤしながら服をまくりあげて
「大丈夫、盗ってないです。カメラに映ってたんでしょ。戻しました。」


>>>>>>>>>
これはあとから録画映像を見てわかったことなんだけど、ぼくが女房に「110番しろ!」と伝えに行ったその一瞬のあいだに、彼は防犯カメラに気が付いて、お腹へ入れたDVDを取り出すと棚へ戻していたんだ。ぼくが監視続行した時はちょうどその戻している場面だったみたい。
>>>>>>>>>

とにかく、棚へ戻したとはいえ、実際に腹に隠したのは事実で、もう110番してしまっていることだし、そのままハイそうですかと許すわけにもいかない。
「戻したのはわかったけど、いまもうすぐ警察くるから。盗ったとこもビデオに映ってるからね。ちょっと待っててくれる。」
「・・・・・・・・・」

彼は無言になった。
このまま二人で黙って突っ立てるわけにもいかないので、
「免許証かなんかある?ちょっと出して。」
と言うと、彼は取り出していた財布の中を調べはじめた・・・と思ったとたん、

ダダダダダッ

彼は、いや犯人は、一目散に出口へ向かって走り出した。
「コラ!まて!」
ぼくもすぐにダッシュをしたが逃げられそうだ。
出口を出ようとした犯人のでん部(尻)をかろうじて蹴っ飛ばすと、犯人はつんのめって転んだが、すぐに起き上がり、二発目の蹴りをかわして一目散に逃げていく。

「まて!!」
ぼくも負けじと追いかける。
ぼくが店を飛び出すと、店内にいた別のお客さんも少し遅れて飛び出してきた。正義感の強い人のようで、これは一大事とばかりにぼくと一緒に追いかけてくれているのだ。

お客さん!ありがとー!
心の中で叫びながらぼくは走る走る。犯人も走る走る。相変わらず5メートルくらいの間隔を詰められないまま、ぼくも犯人も全速力で走りつづけた。正義漢のお客さんもずっと走ってきているようだがだいぶん遅れている。

「まて!ドロボー!ドロボー!とまれ!」
「とってねーよ!とってねーよ!」
犯人も叫びながら走りつづける。200メートルくらい走った頃だろうか、犯人の息がだいぶんあがってきているのがわかった。よし、もう一息だ。走ることには割と自信があるぼくにはまだ余裕があった。よし、もう追いつくぞと思ったとき、

ズザザザザー

犯人は足がもつれてヘッドスライディングするかのようにつんのめって転んだ。
「オラ!コノヤロー!」
犯人の前へ回りこみ一撃加えてやろうかと思って近づいていくと、追い詰められたネズミのように犯人も開き直ってかかってきそうな雰囲気になっていた。

むむ、これは気合を入れないとやばいぞと思っていると、正義漢さんがようやく追いついて来るのが見える。すると、犯人はあきらめたようにその場へへたり込んでしまった。 すぐに犯人のそばへ近づいていって、へたり込んだ犯人の顔面へ一発キックをお見舞いする。(軽くね、軽く)

「イテ。」
犯人は顔を抑えて完全に観念した様子だ。
「よし、そのカバンよこせ。」
そう言って犯人のカバンを確保すると、
「これは預かっておくからすぐに店まで戻って来いよ!」

ぼくは犯人をそこへ残したまま店へと向かって歩き出した。正義漢さんはよく状況がわかっていないようで、あれ?犯人そのままでいいのかな?と戸惑いながらもぼくと一緒に店へと向かって歩き出す。

「お客さん、すみません。ありがとうございます。心強かったですよ。」
「いやー、ぼくも野次馬根性で一緒になって追っかけてきたんですけどね。はあはあはあ。」
正義漢さんもそうとう息があがっている。
「身元確認とかしなくていいんすか。」
「大丈夫ですよ、このカバンの中に全部入ってますから。」
正義漢さんはそのカバンが犯人のものではなく、ぼくが盗られたカバンを取り返しただけだと思っていたようだった。
「警察とか呼ばなくていいんすか。」
「いや、もう呼んであります。」
と言いながら途中まで歩いてくると、向うから4台の自転車に乗った警官がワヤワヤとやってくるのが見えた。

ぼくは「ここです、ここ。」という風に軽く手をあげると警官たちは自転車から降りてきて、
「あなた? で、犯人は?」
と言って、ぼくと一緒にいた正義漢さんに疑いの目を向けていた。ぼくはエプロンをしていたから店の者だとわかるが、息を切らしている正義漢さんは怪しまれても無理はない。
するとそこへスゴスゴとこちらに向かって歩いてくる犯人の姿が見えた。

「やつです。さっき、すぐにおまわりさんが来るから待ってろと言ったら逃げ出したんで、追いかけてきたところなんです。」
「それでブツはどうしたの?」
「あ、え、いや、いったん盗ったけどすぐに棚へ戻したみたいなんですけど・・・」
「あ、戻しちゃった。そうか・・・戻したか・・・」
そこへ年季の入っていそうなの警官が口を挟んだ。
「戻したっていいじゃない。とりあえず調べろ。」
そうして犯人の身体検査が始まった。
「これ、やつのカバンです。逃げないように預かってたもんで。ぼくはもう店に戻ってていいすかね。」
「ああ、いいよいいよ。防犯ビデオに映ってんでしょあとでそのビデオ見にいきますから。」


店に戻ってしばらくすると警官がふたりやってきた。
そして、その時の状況を聞いてからビデオを見終わると、
「了解。そうですね、犯人も自分でカメラに気が付いてブツを戻してるんで、ちょっと事件にはできませんね。と言ってもこれで終わりにはしませんから。これから交番に連れて行ってキツク言って始末書かかせますから。それでいいですか。」
「はい、それでいいです。よろしくお願いします。」
「じゃ、そういうことで。」
「どうもご苦労様です。ありがとうございました。」
すると警官は

「またおねがいします。」

の言葉を残して帰っていった。

おいおい、できることならまたお願いしたくないよ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

さて、正義漢さんはといえば>>>>
表で煙草を吸いながらしばらく呼吸を整えていたようだが、ようやく興奮も収まった頃には「おねがいしまーす。」といってレジに本を持ってくる通常のお客さんに戻っていた。 ぼくはレジを打ちながらまたお礼を言って、お会計892円のところ、800円におまけしてあげました。ちょっとセコイか?でもあんまりまけても逆に気を使わすからね。


そしてぼくはといえば>>>>>
気がつかないうちに地面かどこかに右のひざを突いていてらしくて、ひざっ小僧が赤く擦り剥けていた。ズボンは破れていないけど。しかも擦り剥いただけではなくて、けっこう打撲傷みたいにもなっている。踏んだり蹴ったり。蹴られたのは犯人だけどね。


THE END

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かつあげ店長の事件簿 CASE 8(2003.3.21UP)

久々の盗っ人だ。

まさかあんないい歳した人がそんなことするとは思わなかったから無警戒だったよ。40前後だと思うけど。またエロビデオ。4000円くらいもするやつ。

無警戒と言っても全く見てなかったわけでなくて、なんか買ってくださーいって気持ちでちらちらとは見てたんだけど、ビデオを1本手に持ったんで、よっしゃーありがとうございまーすってウキウキ気分でレジまで来るのを待ってたらそのままスーッとレジの前通過して行こうとする。あわてて、
「お客さーん、お金払ってくださいよー」と言ったんだけどあとの祭り。急に走って逃げてった。
「逃げてもちゃんとテレビに映ってますよー」って言ったけどそんなことで戻ってくるはずもない。(テレビにって、本当はビデオにと言いたかったんだけど。ま、わかるか。)

まだ女房はきてなかったし、サンダルだったし、追いかけることもできずにとられっぱなし。表に出て逃げてったほう見たら100メートルくらい先にそいつが見えたから、店内に戻ってすぐズックに履き替えて、ストーブ消して、店の鍵閉めてから逃げた方角を探してみたんだけどもちろん見つからない。逃げてからもう5分ちかくは経過してるからね。しかも顔なんてよく見てなかったからよくわかんない。

なんとなくそれっぽい人が信号待ちしてたから、
「すいません、今お店にいた方ですか?」
なんて聞いちゃったよ。なんとおマヌケな。
「え?お店?」
「さっき向うのムックオサールにいませんでした?」
「行ってない行ってない」

そりゃそうだ。もしそうだったとしても「はいぼくです」なんていうわけないよね。でももしそうだたらあわてるんじゃないかなと思ってさ。あわてるどころか、憐れられたよ。
それで虚しく店に引き上げてきたよ。

まったく、盗んだエロエロみたってぜんぜんおもしろくないですよーだ!

THE END

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かつあげ店長の事件簿 番外編2 〜めぐり逢いの巻〜( 2003.3.22UP)

もう1年位前かな?DVDを盗られたことがあって、その時は全く気付いていなかったんだけど、あとで売場をみたときに無くなっていることにはじめて気がついたというパターン。

それが2回続いた。2回とも同じシリーズのDVDで、それが無くなった日には必ず来ていたお客さんがいて、こいつじゃないかなって限りなく黒に近い人物なんだけど、その人はよく来てくれる人だったから、かなり疑わしいとはいえ「まさかな」と思ってあきらめてた。よく来てくれる人だから警戒もしてなかったわけだけど。その後もその人はよく買ってくれるし、「買取り」で売りに来てくれたりもするし、やっぱり気のせいだろうと思うことにした。お客さんを疑った自分に少し嫌悪したりして。

それがなんとやはり。
きのうなんだけど、そのお客さんがいつものように買取でやってきた。するとその買取り品のなかにそのDVDも混じっているではありませんか!もうすぐわかったね。あーこれだ。やっぱりおまえだったのか!ってね。もう1年位もたってるからわからないだろうと思って持ってきたんだろうけど、人間の記憶力を甘く見ちゃいけませんぜ旦那。

だけど知らん顔しました。だってそこでとがめたって無意味だし、これまでどおりお客さんとしてきてもらった方がいいからね。でも、あれ?これわ?ってな感じでそのDVDを裏返したりなんだりして、よくチェックしたからそのお客さんはドキドキしてたみたい。急に帽子のひさしをぐっと深くして顔を隠すようにしてたしね。ちょっと失敗だったかな。どうせ知らん顔するならもっと徹底的に知らん顔すればよかったかも。

それにしても自分が盗られたもんをご丁寧に買取るというのも馬鹿げた話だけど、まあしょうがない。それ以上に客として今後も買いにきてくれたほうがいいしね。今後は要注意人物だけど。

一緒に持ってきた他の本とかも1回しか読んでないようなきれいなものばっかりだったけど、まさか他の店で盗んできたやつじゃないだろうな。

THE END

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かつあげ店長の事件簿 CASE 9(2004.3.21UP)

昨日、ひさびさに万引き野郎発生だ。エロエロビデオ1本2900円(税別)
ここんとこ、もう1年くらいはなかったのに。
見てないようで見てまっせ、なめんなよペロペロ。

二人連れで来てて、たまに買いに来るお客だったから初めは警戒してなかったんだけど、やはり長年の経験からちょっとあぶなそうってのがわかって警戒してたら案の定だった。

ひとりのほうは普通に買ってくれたんだけど、もうひとりがダメ人間だ。だけど普通に買ってくれた人のほうも"俺は万引きなんてやらないけどやるならどうぞ、ちょっとはしやすいように環境作ってやるぜ"てなもんで、「なになにありますか」のようにいろいろ質問してきたりしてこっちの注意をそらせようとしてたから、やはりこやつもプチダメ人間だろうね。そんな変な小細工すればなおさらこっちは警戒するんだけどね。

盗った奴は初めのうちは堂々とビデオを手に持って店内まわってたから、ちゃんとレジに持ってきてくれるんだろうなと警戒しながらも思ってたんだけど、レジに他のお客さんがきた隙にスーっと二人で出ていった。それでレジのお客さんには「ちょっとすいません」って言ってほったらかしにしてすぐにやつらのあとを追いかけて店の前で「ちょっとまって!」と言って御用となったわけだ。


見た感じ20歳前半くらいで、キャバクラへ女の子を派遣する仕事してるって言ってたけど、それってよく街角で見かけるスカウトのことなのかな。パソコンで作ったと思われる名刺には営業部長なんて肩書きがあったけど。

そういう奴だから初め態度でかくて悪いのなんの。
「ちょっと店に戻って」と言ったら大声で
「すいません!ほしかったんです!ほんとすいません!」

こうやって文字にすれば素直に謝っているように見えるけどそうじゃないんだよね。ああ、ついてねー、とりあえずあやまっとけって感じかな。それも他のお客さんがいようがいまいがおかまいなしのふてぶてしい大声ね。連れの友達の手前、ミエもあったのかもね。それでもこっちはそんな態度にも毅然とした態度で「ちょっと、大きい声ださないでくれる」って感じで対応してたら、そいつはそういう自分が通用しないことに気がついたのか、だんだん真顔になってきておとなしくなった。

「うちは即警察に通報することになってるから。いいよね」って言って電話の方へ目をやると怖気づいた様子で「それは・・いやです。買います。買わせて下さい」って言うから「買うって、いくらで買ってくれるわけ?」と聞くと、「今1000円しか持ってないので、これ(1000円)置いていきます。ビデオは要りません」だって。
おいおい、1000円しか持ってないってどういうことやねん。始めから盗るつもりだったんじゃないかよ。

「えー?1000円?それじゃあやっぱり警察呼ぶしかないな。電車でも無賃乗車すれば3倍払いでしょ。これも3倍で買うって言うならいいかと思ったけど、1000円しかないんじゃしょうがないね」
「いや、給料入ったらちゃんともって来ます。住所とか連絡先もちゃんと教えます」
「そう、じゃあ免許かなんか身分証明証のようなものある?」
「ないっす、もってないす」

そこで逃げられないように没収しておいたセカンドバックの中をチェックさせてもらったら本当になんにも入ってない。いや、入ってるけど、入ってるのはクレジットカードといろんな人の名刺でいっぱいの財布とタバコだけ。財布は高そうなやつだけど中身は入ってない。そういう奴だから身元の割れるようなものは持ち歩かないのかもね。

「ちゃんと一筆書きます。拇印も押します」
「そんなもん紙切れだけの問題じゃん。盗んどいてそんなこと言ったって信用できるわけないでしょ、金はないわ身分証明はないわじゃやっぱり警察呼ぶしかないよ」
「いや、絶対払います」
「じゃあさっきの友達は持ってないの?友達から借りれば?」
と言ったらあいつも持ってないとかなんとか言ってたけど、もうそれしか道はないとあきらめたのかさっきの友達へ電話してる。こっちはてっきり友達は店の前でまってるのかと思ったら、先にさっさと帰っちゃったんだって。なるほどね、そりゃ金借りられるような仲じゃないわけだ。

「○○さんすか、いま金持ってます?、3払いなんす」
サンバライなんて言葉で話しが通じてるところを見るとこいつら常習じゃないのか?
「6千円しかないって言ってます」
「じゃあもうそれだけでいいよ」
と言うことで、その友達は近所に住んでるらしく、ものの数分で金持ってやってきて、彼はそれを借りて6000円+自分の1000円でそのビデオを買って帰ったのでした。

本当のこと言うとこっちも警察なんか呼ぶより買わせた方がいいんだよね。警察きたってどうせ適当に処理されて終わりだからね。これも経験からよく知ってること。せいぜい始末書かかせて終わり。それこそ紙切れだけの問題だ。こっちもこの忙しいのに警察署まで出向かなきゃだめになるし。自分の城は自分で守るしかないわけね。

THE END

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かつあげ店長の事件簿
 CASE 10(2004.5.6UP)

ゴールデンウィーク最終日の今日、しかも大詰めの閉店間際のこと、発生しちまいました、千匹、nonnon、万引。例によってエロビ。だから、カメラはほんまもんですよって書いてあるじゃないの!なんでやっちゃうわけ?

たまに来るお客さんだったし、もうひとり別のお客さんもエロビコーナーにいたからそれほど警戒してなかったんだけど、やっぱり微妙な動きで危なそうってのはわかるもんなんだよね。そしたら案の定。腹にビデオを入れたのが見えたからすぐにエロビコーナーへ。もうひとりのお客さんは先にエロビコーナーから出てきてたんだけど、ぼくがいきなりレジから立ち上がってエロビコーナーへ向かったもんだからびっくりしてた。で、ちょうどやつがエロビコーナーから出てくるところと鉢合わせ。

ぼくは間髪いれずに、
「財布持ってるよね?」
「え、あ、はい」
「ちゃんとお金払ってくれんでしょ」
「え、あ、は、」
「じゃ、財布出して」

やつは言葉を返す間もなくポケットからずっしりと重たい二つ折りの財布を取り出すと素直にぼくに渡した。「じゃ、レジまで来て」と言ってツカツカとレジまで先に行くとすごすごとついてきて、ちゃんと腹からビデオも取り出してカウンターの上に置いた。いつもなら「我なめんなよ」と懲らしめるところだけど、素直だったから普通に買わせて許してやることにした。

「だめだよ、ちゃんと見てんだからさ」ピッピッピガシャーン「はい、3100円です。じゃあここから抜いてもいいね」と言って財布を開くことを告げたら、「はい」って素直に答えるから財布を開いて代金を頂こうとしたんだけどお札なんて1枚も入ってない。ずっしり重たかったのは小銭が詰まってたから。小銭入れの部分はパンパンに膨れ上がってる。

「あれ?なにこれ、入ってないじゃん」
「すいません、おろしてきていいスカ」
「ああそう、じゃあおろしてきて。これは預かっとくからね」
と言って免許証だけ抜き取って財布を返した。
「えっと、ナンジまでっスカ」
「ん?そこのローソンまでおろしに行くわけ?じゃあ5分以内に」
「わかりました!」

彼は2〜300メートルほど先のローソンまですっとんでいって、その間にぼくは免許証のコピーをとっておいた。茶短髪、あごひげ有のいかにもイマドキの青年で、住所はすぐ近く。来週で22歳になるようだ。22にもなってナニしてんねん。

待つこと数分、彼はお金をおろしてもどってきた。
「はい、じゃあ3100円ね」
彼の財布にはおろしてきたばかりの二千円札が2枚と千円札1枚が入っていて、そこから3000円と小銭入れから100円を取り出すとカウンターの上に置いた、、のはいいんだけど、なぜかニヤけてる。

「なに笑ってんの?」
「え、いや」

それでもやっぱり笑ってる。普通なら、もしもそれが照れ笑いだったとしても「なに笑ってんの?」って言われたらハッとして真顔に戻るものなんだけど、やっぱり笑ってる。

「本当ならすぐに通報するところだけど、今日のところはお金払うことで許してあげるから」
「あ、はい」
と返事をしつつもやっぱり笑ってる。

「よ、なんで笑ってるわけ?」
もう一回聞いてやった。
「あ、いや」
それでも笑ってる。

はっ、もしかして、ぼくちゃんなめられてる?

「おい!なに笑ってんだよ、なめてんのか、もういい!これ引っ込めろ!110番するからな!」
と言ってカウンターの上の3100円をつき返して受話器をとるとようやく真顔になって
「あ、いや、ほんとすみません。勘弁してください」
「もういいよ、人がせっかく金払って済ませてやろうとしてやったのになにニヤニヤ笑ってんだよ、もう通報だ通報!なめんじゃねえぞこら!」

CDを選ぶ振りをしながら聞き耳を立てていた別のお客さんが語気の荒くなったぼくの方をチラッと見ていたけれど、もうほかのお客さんのとこを気にしていられない。

「ほんとすいません、すいません、勘弁してください」
「だめ。」
「すいません、すいません」

金は受けとらない、警察へ通報だといわれるともう謝るほかないんだろうけど、ごめんなさい、はいそうですかと簡単に済ませられるはずはあるまい。だってそれはもう最初の段階で済んでるもんね。初めは素直だったから買わせて終わりにしようとしたのに、なめた態度とってちゃ片腹痛いわ。やっぱり万引きするようなやつは痛い思いさせなきゃわかんないんだよ、いい教訓になった。これからもビシビシいかなアカンね、とは言え、警察呼ぶのも正直なところめんどくさい。事情聴取やら被害届やら出頭やら、挙句の果ては始末書書かせておしまいだからね。

「ホントすいません、勘弁してください」
「ったく、もう3100円じゃダメだな、全部出せ!」

でた〜〜、かつあげ店長見参!

もう彼は抵抗する術を持たない。
財布から残りの二千円札を取り出すとカウンターの上に置いた。
「よし、じゃあこれは持って帰っていいから。もうくんなよ!出入り禁止だからな!」
と言われなくてももうこないと思うけど。

怖いのは逆恨み。だけどやつの身元は抑えてあるし大丈夫かな。これから夏に向かってまたこういう輩が増えそうな嫌な予感。なぜか冬より夏の方が多いんだよね。困ったもんだよまったく。


THE END

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