カミナリ店長の事件簿 完結編 (2007.12.7UP)
今日の万引き犯は小学6年生の3人組。店に入ってきたときから危なげだった。ちらちらとカメラの位置を気にしてるので、こりゃ要注意だぞと思っていると、アダルトコーナーを覗き込んではしゃいでいるので、これは万引き狙いじゃなくてエロガキどもかな?と思って、とりあえず知らん顔をしていたら20分くらいで自転車に乗って帰っていった。ふうやれやれ、、、と思ったのもつかの間、またすぐに戻ってきた。しかも今度は3人のうちの2人が歩きでやってきた。自転車はどこかへ置いてきたのだろう。あとの一人は見張り役か?
これは完全に万引きしようとしてるなと察したのだが、実行する前に注意するなんて事はしない。以前はそうやって犯行に及ぶ前に阻止していたこともあるのだが、それだと今この場ではやらなくても、すぐにほかへ行ってやってしまうだろう。大人は別として、子どもの場合は、現場を抑えてお仕置きした方が後々本人のためにもなると考え直してからは、危ないと分かっていても知らーん顔をすることにしている。すると案の定、二人のうちの一人がマンガ本2冊を腹に隠して、二人は出て行った。
すぐに追いかけると、3人はぼくが追ってきたことには気付かずに、大成功とばかりに嬉々として自転車で走り去ろうとしているところ。気付かれて猛ダッシュをされていたなら逃げられるところだったかもしれないが、ぎりぎりで一番ケツを走っていた少年に追いついた。「ちょっとまて」と後ろからジャケットの襟首を捕まえると、彼はびっくりして、自転車は倒れるし、あわわわっという感じで泡を食っている様子。
「ぼくじゃないです。ぼくやってないです」
「いいからこい」
ぼくは倒れた自転車を起こして片手で引っ張りながら、もう片方の手で少年の襟首を捕まえたまま店まで連れもどした。
「ぼくじゃないですぼくじゃないです」
「おまえじゃなくてもいいんだよ、一人捕まえとけばみんな戻ってくるだろ」
やはり友だちは見捨てられないとみえて、ほかの二人もすぐに戻ってきたのだが、そのうちの一人がどこで覚えたのか、いきなり店の入口のところでガバッと土下座をして「すみませんすみません、どうかどうか、親にだけは連絡しないでください。あ、あ、そして警察にも連絡しないでください!」と嘆願し始めた。するとそれにつられてほかの二人もガバッと土下座をして3人そろって「すいませんすいません」をやっている。
通りかかったおじさんは「ははーん、おまえら万引きしたな」なんて言っているし、『わしゃ水戸黄門かっ、余計なことすんなよな、こっちが恥ずかしいわい』と思いながら、「いいから早く立て。早くこっちこいっ」とぼくは逃げるようにして店に入っていくと少年たちも入ってきて、店の中でまたガバッと土下座。「親にだけは言わないでください。すいませんすいません」とワーワーうるさいのなんの。ほかに客がいなかったからよかったようなものの、そんなことをされたら逆に気分が悪い。
「もーうるさい!いいから立て。親に連絡しないわけないだろ。親に連絡して親から注意してもらわなきゃ、おまえら立ち直れないだろうが。よし、名前と電話番号をこれに書いて」
そう言ってメモ用紙とボールペンをその土下座第一号に渡すと、彼はヒックヒックと泣き出している。ぼくはお構いなしに「ほら、早く書いて。名前と電話番号な」と言うと、彼はヒックヒック言いながらも書こうとしているのだが、手がガクガクと震えていて全然書けていない。国会の証人喚問で誓約書かなにかにサインをするときに、緊張のあまり手が震えて書けなかった人のニュース映像を見たことのある人もいると思うが、あんな感じのもっと大げさな震えだ。
こいつマジかよ・・・と、かわいそうと言うよりもなんだかわざとらしさを感じながら、「じゃあいいよ、紙こっち返して」とメモを取り返してみると、かろうじて名前は書いてあった。
「西城ヒデキ(仮名)君ね。はい、じゃあ電話番号。早く言って。よし。次、キミ。名前は?野口ゴロウ(仮名)?はい、じゃ電話番号。はいキミは?郷ヒロミ(仮名)君ね。はい電話番号」
「569・・・、、あ、579・・だったかな?」
「おい、うそ言ってんじゃないだろうな。うそついたらえらい目にあうぞ。わかってんだろうなっ」
ガツンと脅しをかけると、西城君が割って入ってきて、
「すいません!うそです!すいません!」
「あ?西城ヒデキってのがうそなのか?」
「はいすいません!」
おいおい、、、あの土下座、あの泣きじゃくりまで見せておいて、ここに来てうそつくか?何考えとんねん・・・パシッ!!
いやー気合入れてやりましたよ。猪木ボンバイエもびっくりだ。と言ってもかるーくですよ。ほっぺにとまった蚊を叩くくらいの軽さでパシッっとビンタ一発。そしたらその子が言うには、「すいません!ぼく悪いことしたんだから、こんなことされても当然です!」だって・・・。オイオイ、「こんなこと」って、今の社会を象徴している台詞ですな。体罰禁止だのなんだの甘っちょろいこと言ってるもんから、悪いことをしてちょっとビンタを食らったくらいで「こんなこと」ですよ。学校の先生も大変やのお・・・
「なにがこんなことだっ。当たり前のことだろ」
「はいすいません!」
「なんだ、さっきのおびえた様子も全部演技か?」
「いえ、あれは本当です!」
あれは本当ですって・・・おもわず笑いそうになりましたよ。
「よし、じゃあちゃんと教えろ。名前は?電話もうそ?今度はうそじゃないだろうな、おまえは?おまえもうそか、なんだ全部うそじゃねーか!」
結局三人とも名前も電話番号もうそだった。ここに来てそんなうそをついてバレないと思っているところがやはり子どもなのか?そんなこんなでようやく名前と電話番号を聞き出したので親へ電話をしようと思うのだが、3人とも共犯で誰が主犯とは決めがたい状況だったのでどうしようかと思って、「じゃあ家に電話するけど、この中で代表してうちに電話をしてもいいと言うやついるか?」と聞いてみると、その演技派西城君が躊躇しながらも手をあげて、「ぼくのところでいいです。悪いことしたんだから当然のことです」と勇気ある行動に出た。おー、なかなかえーやっちゃなとちょっと感心しつつ西城君のところへ電話をしてみると、留守電になっていた・・・。
「留守電になってるね」
「あ、じゃあ出かけちゃってるんだ」
「うーん、それじゃあしかたない。野口君のところはどうだ?」
「うち共稼ぎなんで、今いないです」
「郷君のとこは誰かいるか?」
「・・・はい、いる、と思います」
「じゃあキミんとこ電話するからね。いいね」
「・・・はい、いいです」
というわけで郷ヒロミ君のところへ電話をするとお母さんが出た。
(筆者注:最初に聞きだした名前、西城、野口、郷はうそだったわけですが、便宜上ここではその名前のまま話を進めます。)
「こちら隣町のブックスヤスジと申しますけど、えー、息子さんのヒロミ君ですか?まあそのー、万引きをしましてですね、三人でやったんですけど、一人は西城君って子、もう一人が野口君、そしてヒロミ君の三人で、ですね。まあ誰がと言うか、共謀ですね。そういうわけで電話させてもらった次第なんですけど、え?警察と学校に連絡?ま、まだ小学生ですから、警察に連絡しようとは思ってませんから、このまま帰しますんで、ほかの子たちの親御さんともそちらで連絡を取り合ってもらってですね、今後こういうことのないようにそちらでしっかり注意してもらえばいいですから。はい、はいはい、では失礼します」
お母さんは動揺しているのか、「うちの子はやったんでしょうか?」とか「警察と学校へはもう連絡したんでしょうか?」とか、なんだかいまいちマト外れな対応だった。それでも最後には「すみませんでした。厳しく言い聞かせますんで、ほんとに申し訳ありません」と恐縮していた。
「よし、それじゃあもう行ってもいいぞ。これで懲りたろ。二度とすんなよ」と送り出そうとすると、演技派西城君は「ああ、ありがとうございます。はい懲りました。もう二度といたしません。ありがとうございますありがとうございます」とまたもや土下座しそうな勢いだったので、「よしいいよ、さあもう行け。二度とすんな」となかば強引に押し出すようにして帰した。
西城君の立ち去った後には、涙がボトボトと落ちていて床が濡れていた。西城君の勢いにつられてほかの子たちもみんな泣いていたという感じだったが、親が共稼ぎと言った野口君は、ほかの二人が泣いてるんだからオレも泣いとかなきゃカッコつかないぞという感じがミエミエだった。涙も出ていなかったし・・・。
野口君はどうも天然ボケぽかった。ほかの二人に比べてそれほど動揺している風ではなかったし、一人ずつ名前と電話番号を聞いていったときに、この子だけがなぜか途中でニヤけていた。それでぼくは「おまえなに笑ってんだよ」とぺシッと頭をハタいてやったのだが、後になって思えば、先に名前を答えていた西城君がうその名前を言ったものだから彼はニヤけたのだろう。先に西城君がうその名前を答えたものだから、あとの二人もみんなうそをついたと考えられる。演技派西城恐るべし。
子どもたちを帰したのが夕方5時頃のことで、7時頃になって野口君がお母さんと一緒にやってきた。先に共稼ぎと聞いていたからかもしれないが、いかにも頑張ってますという感じの誠実そうなお母さんで、仕事を終えて駆けつけたという感じだった。こんなにいいお母さんなのに、、、とちょっと痛々しいほどだった。
「このたびはうちの息子が、ほんとにご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした。ほんとにもう、なんと言ったらいいのか、、ほらっ、あんたもちゃんと謝んなさい!」と、ぐっと息子の頭を押さえつけている。
「いや、わざわざ来ていただいてすいません。三人でやったんですけどね、とりあえず親から注意してもらった方がいいだろうと思って連絡させてもらった次第でして、ま、これで大丈夫だと思いますから。もう二度とすることもないでしょう」
「ありがとうございます。ねっ、もう二度としないね。絶対よ、ちゃんと誓って!」
「二度としません」
「ほんとにすみませんでした。これ、少しなんですけど、どうか、、、」
お母さんはそう言って文明堂の紙袋を差し出したので、「あら、こんなことしてもらっちゃ逆にこっちが申し訳ない感じですけど・・・」と言いながらもしっかりと受け取った。本当にそんなものは全然期待していなかったのだけれど、遠慮をして受け取らない方がかえって失礼であろう。
文明堂といえばもちろんカステラだが、後でちょっと調べてみるとかなり高級なものだった。調べるだなんていやらしいけれど、いくらぐらいするもんだろうというのはやはり気になる。今はネットでそういうことがすぐに調べられるから便利と言うか不便と言うか、とにかく普段は口にすることはない高級カステラをいただきました。ええお母さんやのお、、、息子よお母さんを大切にな。
さて次の日、午後遅くなってから今度は演技派西城君がお母さんと一緒にやってきた。一緒に入ってくるのが入口のカメラに映ったので「来たな」というのはすぐに分かったのだが、まずはお母さんだけがレジのところまで来て、息子は棚の影のこちらからは死角になるところにいたので、ぼくは気が付かない振りをしてお母さんに「いらっしゃいませ」と声をかけた。と言うのも、お母さんはレジのところまで来たはいいけれど何も言わないから。普通なら「きのう息子が・・・」などと真っ先に言ってくるものだが、それがなんだかこちらの様子をうかがっているというか、えーっと、、、のような感じで用件を切り出さずに妙な間があいていた。
「いらっしゃいませ」
「あのー、きのう息子が・・・」
「あーはいはい、これはどうも」
すると息子も死角から見えるところへでてきた。お母さんは真っ先にお詫びを述べるのかと思いきや、また妙な間があいた。あれ?なんかヤな感じだなーと思いつつ、こちらとしてはその間が気持ち悪かったので先に口を開いた。「三人でやったんですけどね、親の方から注意してもらわないといけないだろうと思って連絡させてもらった次第でして」と、きのう野口君のお母さんに言ったのと同じことを言うと、「それで、うちの子はやってないって言うんですよ。外で待ってたらしいんです・・・」
ポチン、、、
ぼくの頭の中で細い糸の切れる音が確かに聞こえた・・・。
「やってないって、、、たまたま今回この子は実行しなかっただけで、そういう問題じゃないでしょ。実際に盗ったのはほかの子かもしれないけど、共謀ですよ。三人とも同罪でしょ!」
頭の中の毛細血管からジワッと血のにじむのを感じながらぼくの口調は少しきつくなっていた。
「まあたしかに一緒にいたから同罪なんですけど、、、この子はとめようとしたけど、とめきれなかったと言うんですよね」
ジョワジョワ・・・
太めの血管から血がもれ始めたのを感じつつ、ぼくはヒデキ君に向かって一気に声を荒げてしまった。
「おまえ、きのうと言ってることが違うじゃねーか。きのう『キミは外にいたけど、とめようとしたのか?』って聞いたらそういうわけじゃありませんって言ったろ。すみませんすみませんって土下座までしてたのはなんなんだよっ」
「あんた、土下座までしたの?」
たかが万引きで土下座なんて、と言わんばかりの、あきれたといった調子のお母さんの言葉はぼくのイライラに油を注いだ。
「言っとくけど、別にこっちが土下座しろって言ったわけじゃないからね。こいつが勝手に土下座したんですからね」
「いえ、別にそうは言ってません」
そこでぼくはきのうの顛末を一から説明してやった。最初三人で入ってきていかにも怪しげな動きをしていたこと、いったん帰ったと思ったら二人だけ戻ってきて盗ったこと、盗る前に注意することもできたけどそれじゃあ今日はやらなくてもほかでまたやるだろうからこういう場合は現場を抑える方針であること、外にいたヒデキ君にキミはとめようとしたのかと確認したらそうじゃないと言ったこと、土下座をして許しを請うたこと・・・
「お母さんの前でこんなこと言うのもなんですけど、この子はどういう風にすれば大人の気をひけるかだとか、大人をあざむけるかってことをよくわかってますよ。そういう演技がうまい。そういう悪知恵がよく働く。大げさに土下座して見せたり、ガクガク痙攣しておびえて見せたり、ひーひー泣きじゃくってみたり・・・」
「それ、いつもなんです・・・この子すぐ泣くんです。見てのとおりこれ、弱いんで、すぐ泣くんですよ」
なるほど、自分の弱さをカバーするために編み出した彼なりの処世術がこの演技なのかもしれないな、とちょっと哀れさを感じつつ、お母さん、あなたの教育がなってないんじゃないの?と思ったが、もちろんそこまでは言わない。この人と話していると、外見どおりいかにもインテリっぽく、自分のレベル以下の人は見下しがちなタイプの人のように感じる。そういう環境で育った子どもだから、この子も頭が切れるのかもしれない。しかし子どもゆえ、その頭のよさがズル賢いほうへ向かってしまっているような気がする。
お母さんは話し出した。
「じつは前にも同じようなことがあって、前はコンビニだったんですけど、そのときもとめよとしたけどとめられなくて。で、そのとき言ったんです。もし今度そういうことがあって、とめきれないときはお店の人に言いなさいって。大人に相談しなさいって。それなのにまた同じようなことしてんだから、もう・・・情けなくって」
「ぜんぜん更生できてないじゃない。今回もただ実際には手を出してないだけで、あわよくばってのがあったんでしょ。友だちにやらせてうまくいけば自分もって風に思ってたんじゃないの?そんなの同罪ですよ」
「まあ、私もなんとなーく、どんな感じだったかってのは想像つくんですよね。ほかの子たちがやるのを一緒になって面白がってたんだろうなーって」
・・・ぜんぜんわかっとらんのお、、、面白がってとかそういう次元じゃないでしょっての。前にも同じことがあったと聞いて分かったよ。あんたの息子がヘッドだよ。参謀だよ。もしも捕まったときのことまで考えて自分は手を汚してないだけだよ。捕まったときの謝り方からなにから全部計算してんだよ。「とめようとしたけどとめきれなかった」と言えるように逃げ道を作ってたんだよ、と思ったけれど、そこまでは言わない。
いちおうお母さんも「とめようとしたけど・・・」というのはうそだろうということには気が付いた様子だが、それでも自分の息子は実行犯ではないということで、ほかの子よりは罪は軽いという意識があるんだろうなという雰囲気は感じる。そんなんだから前の件のときから更生できてないんだよ、、、
そうこうしているうちにほかのお客さんがやってきたので、もう幕引きにしようと思って、「キミはそのとき外にいたけど、あわよくばってのがあったんだろ。それは実際にやらなくても同じことなんだぞ。もうすんなよ。そういう子がいたら今度はキミが注意するんだぞ。いいな」と締めて、お母さんにも「はいじゃあもうこれで」と帰るように促すと、お母さんの方もお客さんが来たのに迷惑をかけちゃいけないと察したようで、「どうもすいませんでした」と言ってそそくさと帰っていった。
うーん、ヒデキ君は大丈夫か?このまま行くと屈折してしまいそうな気もしないでもない。人様の家庭の教育方針に口出しはできないけれど、どーも軌道がズレている気がする、、、大きなお世話か・・・
きのう野口君がお母さんと謝りに来たときにはこちらもすがすがしい気分になったけれど、今日はなんだか後味の悪いすっきりしない気分だ。謝りになんて来てくれなきゃよかったのに。謝りに来たんじゃなくて抗議に来たのかな?そういうわけでもないだろうけど、あーきのうのカステラはうまかったなー。なんていうのは冗談ですが、、、
ところで、残る一人の郷君のところは謝りにこなかった。電話で「そちらで注意してもらえばいいですから」と言っておいたからだろうと思うが、三人中一人だけこないというのもちょっと差がつくか?いやいや、ぼくは一言も親と一緒に謝りに来いだなんて言っていないし、本当は来ない方がありがたいくらいだ。そんなのに対応するのは疲れるし、西城君のようなパターンは最悪だしね。
ちょっとした日常にもドラマはあるもんですなー
と、無理やりしめまして、一件落着の巻でございます。
THE END
(この記事は先日ブログにアップしたものを編集・加筆しました。)
2007.12.7 text by YASUJI
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