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見逃せないよ!よもやま話
上北沢のオバケ屋敷 (2003.06.19再録)
(これは去年2月に"写真でエンジョイ"東京小旅行の巻上北沢編で掲載した話の再録です)



最初は引っ越してきたその日の夜だった。

友人ふたりに手伝ってもらって引越し作業を終え、お手伝いのお礼にと一杯飲みに出かけた。友人のひとりは家が遠いため、そのあとうちに泊まることとなって、ぼくとその友人は布団を並べて眠りについたのである。

2、3時間経った頃だろうか。ふと目が覚めると、お決まりの金縛りで体が動かない。目は開くからまわりの景色は見えるし、意識もはっきりしている。疲れていると金縛りにあうことはよく知られている通りだし、これまでも結構金縛りにあっていたので特に怯えることもなく、だけどやっぱり嫌なのでなんとか金縛りをとこうと体を動かそうとしてがんばっていた。

すると耳元で、「スー、スー、スー・・・」...
吐息らしきものが聞こえる。

え?
一瞬ドキッとしたが、耳の向いている方向の関係で友人の寝息が耳元で聞こえたのだろうと思って落ち着いて耳を澄ました。

「フゴー、フゴー、フゴー」...
ぼくと1メートルほど間隔をあけて眠っている友人の寝息は明らかにさっきの吐息とは違っているし、耳元でなんか聞こえない。

こ、こ、これは・・・
一気にぞっとしてまだ金縛りのままの状態で「神様〜、どうかぼくを助けてください。何か悪いことをしたなら謝ります。かみさま〜」普段は信仰心など持ってもいないくせに、まさに困った時の神頼みで、そう心の中で叫んでいた。

怖いので吐息は聞かないようにしながら、もがいていると・・ガクン。
急に金縛りがとけて体が自由になった。

ドキドキしながらも、さっきのは、やはり出たのか?と思いつつこわごわ耳を澄ますと、、、

「わ・た・し・は・こ・の・へ・や・で・・・・・」

どきゃーーーん・・・・
というのは嘘で、〜失礼失礼、ちょっと怖がらせてみました。
では、ちょっと巻戻して、

ドキドキしながらも、さっきのは、やはり出たのか?と思いつつこわごわ耳を澄ますと、
「フゴー、フゴー、フゴー」...
やはり聞こえているのは友人の寝息だけであった。やはり気のせいだったのか?それにしてはやけにリアルだったし・・・腑に落ちないまま、やっぱり怖いけれど、わざわざ友人を起こすわけにもいかないので「もう眠るしかない」と思い、無理やり眠ろうとしたら、あっという間に眠ってしまった。


おっと、怒らないで下さい。別にオチをつけたわけではありません。まだまだ続きがあるのです。けして嘘は書きません。って、さっき嘘ついたばかりじゃないか!いえいえ、あれは嘘ではなく演出です。事実をそのまま書いてもつまんないでしょ。あ、でもけして作り話ではありませんよ。このあと、やはりそうだったのか!という事実が突きつけられるのです。さてさて、無駄なおしゃべりはこのぐらいにしておきまして、怒とうのエンディングをどうぞ!

昼近くになってぼくと友人はモソモソ起き出した。夕べの記憶はまだ鮮明に残っていたがわざわざ友人に話すほどのことでもないかな、やっぱり気のせいかもしれないしな、と思い結局そのことは自分の胸のうちにしまいこんでしまった。

友人も帰って行き、その晩からは当然ぼくひとりで眠ることとなる。夜になっていざ眠る段になるとやはり昨日のことが思い出されて怖くてしょうがない。情けないことにそれから2、3日は夜も電気をつけたまま眠った。

そうこうするうちにその恐ろしい記憶も薄らいできて、いままでどおりのペースが生活に戻って きたのである。その後は特にそうした現象も起こらず、いや、実は何度か「おや?」と思うことはあったのだが あえて気のせいだと思うことにして、ごく普通の日々を過ごしていた。

この家に引っ越してきてからどれくらい経ってからだったろうか。1年は経っていなかったと思うのだが、ある日また別の友人が泊まりにきた翌朝のことだ。

「浅倉、もしかしてこの部屋なんか出るんじゃないのか?」
「え?」
「昨日寝てたら、金縛りにあって、誰か耳元でハアハア言ってんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」

どぎゃーーーーーーん!
ほらね。やっぱりでしょ。やっぱり出るんですよ。
だってぼくのときとおんなじだもんね。
どぎゃーーーーーーん!
もう1回言っとこ。
どぎゃーーーーーーん!ははは、3回も言ったった。


「やっぱ出た?」
「やっぱって、本当に出んのか?・・・そんなら、先に言ってくれよ!」
「耳元ではあはあ聞こえるけど、俺の寝息はちゃんと別に聞こえてたんだろ」
「そう!そのとおり!あー、やっぱり気のせいじゃなかったんか・・・」
「ずっと黙ってたけど、俺も最初の晩に聞こえたんだよ。でも気のせいじゃないかって思ってたんだけど、そうか、やっぱり気のせいじゃなかったんだ。はっはっは」
「はははじゃないよ。 おいおい、先に言っとけよ。もうこの家にゃ泊まらねえ」

もう1年近くもこの家で寝起きしていたので、今さら本当に出るんだということが証明されても特に怖いとは思わなかった。逆に笑っちゃったくらいだ。 だけどしかし!!
その日の晩は明かりは消さずに眠りました。
このビビリもんが!

これはけして作り話ではありませんよ。演出はあっても嘘はありません。大袈裟な表現はあっても嘘はありません。たしかに出るらしいけれど、これといった危害を加えるでもなし、別段変わったこともなかったと言えばなかったんですが、ただなんとなくこの家は居心地が悪かった。あの部屋にいると、なんとなくいつも気だるい感じになっていた。湿気もすごいし。いつも部屋のあちこちに除湿ポットを置いていたけれどそれらはすぐに水がいっぱい溜まってしまっていた。あと、ゴキブリもいっぱい出たし。

おばけが出るってことが直接の原因ではなかったんだけれど、やはりなんとなく居心地が悪いということでここに住んでいたのは1年ちょっとだった。だからあまりというか、ほとんどあの家には愛着がない。得したことは話のタネが増えたことくらいかな。

だけどこの話をすると、かえってくる反応は決まって
「ヒヒヒ、なんだよ、誰かいい人でも隣にいたんじゃねえのか」
これだ。
もうその反応はやめてくれ!
どいつもこいつもドイツ人だ。←意味なし。(古典的)
今この話を読んでいてそう思った人もいっぱいいるはず。
もうもうもう、本当に出たんですからね。
どぎゃーーーーーーん



THE END
こんな感じですか


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