No.286の記事
カミナリ店長の事件簿・下編
2007年12月05日(水)


さてさて、それではさっそく「カミナリ店長の事件簿・下編」完結編です。上編・中編を先に読んでいただいた方がよろしいのではないかと思いますので、よろしかったら、よろしく。
 
「カミナリ店長の事件簿・上編」
「カミナリ店長の事件簿・中編」
 
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カミナリ店長の事件簿・下編
 
「うちの子はやってないって言うんですよ。外で待ってたらしいんです・・・」
 
なぬ?頭の中の毛細血管からジワッと血のにじむのを感じながらぼくの口調は少しきつくなった。
「やってないって、、、たまたま今回この子は実行しなかっただけで、そういう問題じゃないでしょう。実際に盗ったのはほかの子かもしれないけど、共謀ですよ。三人とも同罪でしょ!」
「まあたしかに一緒にいたから同罪なんですけど、、、この子はとめようとしたけど、とめきれなかったと言うんですよね」
 
ジョワジョワ。太めの血管から血がもれてきちゃったよ。
ぼくはヒデキ君に向かって一気に声を荒げてしまいました。
 
「おまえ、きのうと言ってることが違うじゃねーか。きのう『キミは外にいたけど、とめようとしたのか?』って聞いたらそういうわけじゃありませんって言ったろ。すみませんすみませんって土下座までしてたのはなんなんだよっ」
 
「あんた、土下座までしたの?」
たかが万引きで土下座なんて、と言わんばかりの、あきれたといった調子のお母さんの言葉はぼくのイライラに油を注いだ。
 
「言っとくけど、別にこっちが土下座しろって言ったわけじゃないからね。こいつが勝手に土下座したんですからね」
「いえ、別にそうは言ってません」
 
そこでぼくはきのうの顛末を一から説明してやった。最初三人で入ってきていかにも怪しげな動きをしていたこと、いったん帰ったと思ったら二人だけ戻ってきて盗ったこと、盗る前に注意することもできたけどそれじゃあ今日はやらなくてもほかでまたやるだろうからこういう場合は現場を抑える方針であること、外にいたヒデキ君にキミはとめようとしたのかと確認したらそうじゃないと言ったこと、土下座をして許しを請うたこと・・・
 
「お母さんの前でこんなこと言うのもなんですけど、この子はどういう風にすれば大人の気をひけるかだとか、大人をあざむけるかってことをよくわかってますよ。そういう演技がうまい。そういう悪知恵がよく働く。大げさに土下座して見せたり、ガクガク痙攣しておびえて見せたり、ひーひー泣きじゃくってみたり・・・」
「それ、いつもなんです・・・この子すぐ泣くんです。見てのとおりこれ、弱いんで、すぐ泣くんですよ」
 
・・・なるほど、自分の弱さをカバーするために編み出した彼なりの処世術がこの演技なのかもしれないな、とちょっと哀れさを感じつつ、お母さん、あなたの教育がなってないんじゃないの?と思ったが、もちろんそこまでは言わない。この人と話していると、いかにもインテリっぽく、自分のレベル以下の人は見下しがちなタイプの人のように感じる。そういう環境で育った子どもだから、この子も頭が切れるのかもしれない。しかし子どもゆえ、その頭のよさがズル賢いほうへ向かってしまっているような気がする。
 
お母さんは話し出した。
「じつは前にも同じようなことがあって、前はコンビニだったんですけど、そのときもとめよとしたけどとめられなくて。で、そのとき言ったんです。もし今度そういうことがあって、とめきれないときはお店の人に言いなさいって。大人に相談しなさいって。それなのにまた同じようなことしてんだから、もう・・・」
「ぜんぜん更生できてないじゃない。今回もただ実際には手を出してないだけで、あわよくばってのがあったんでしょ。友だちにやらせてうまくいけば自分もって風に思ってたんじゃないの?そんなの同罪ですよ」
「まあ、私もなんとなーくどんな感じだったかってのは想像つくんですよね。ほかの子たちがやるのを一緒になって面白がってたんだろうなーって」
 
・・・ぜんぜんわかっとらんのお、、、面白がってとかそういう次元じゃないでしょっての。前にも同じことがあったと聞いて分かったよ。あんたの息子がヘッドだよ。参謀だよ。もしも捕まったときのことまで考えて自分は手を汚してないだけだよ。捕まったときの謝り方からなにから全部計算してんだよ。「とめようとしたけどとめきれなかった」と言えるように逃げ道を作ってたんだよ。
 
・・・と思ったけど、そこまでは言わない。いちおうお母さんも「とめようとしたけど・・・」というのはうそだろうということには気が付いた様子だけど、それでも自分の息子は実行犯ではないということで、ほかの子よりは罪は軽いという意識があるんだろうなという雰囲気は感じる。そんなんだから前の件のときから更生できてないんだよ。
 
そうこうしているうちにほかのお客さんがやってきたので、もう幕引きにしようと思って、「キミはそのとき外にいたけど、あわよくばってのがあったんだろ。それは実際にやらなくても同じことなんだぞ。もうすんなよ。そういう子がいたら今度はキミが注意するんだぞ。いいな」と締めて、お母さんにも「はいじゃあもうこれで」と帰るように促すと、お母さんの方もお客さんが来たのに迷惑をかけちゃいけないと察して「どうもすいませんでした」と言ってそそくさと帰っていった。
 
うーん、ヒデキ君は大丈夫か?このまま行くと屈折してしまいそうな気もしないでもない。人んちの教育方針に口出しはできないけど、どーも軌道がずれている気がするんだけど、、、大きなお世話か・・・
 
きのう野口君がお母さんと謝りに来たときはこっちもすがすがしい気分になったけど、今日はなんだか後味の悪いすっきりしない気分だ。謝りになんて来てくれなきゃよかったのに。謝りに来たんじゃなくて抗議に来たのかな?そういうわけでもないだろうけど、あーきのうのカステラはうまかったなー。なんてのは冗談ですが、、、
 
 
ところで、残る一人の郷君のところはこなかった。電話で「そちらで注意してもらえばいいですから」と言っておいたからだろうけど、三人中一人だけこないってのもちょっと差がつくか?いやいや、ぼくは一言も親と一緒に謝りに来いだなんて言ってないし、本当は来ない方がありがたいんだよね。こっちもそんなのに対応するの疲れるもん。西城君のようなパターンは最悪だしね。
 
 
 
ちょっとした日常にもドラマはあるもんですなー
と、無理やりしめまして、一件落着の巻でございます。
トンツクトンツクテケテケ・・・
 
 

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